伍拾漆 ページ23
ひとまず千代に反転術式を施す。衰弱した体を反転術式で治すことは不可能だが、千代の体のあちこち青くなった痣があった。恐らくだが加茂憲倫に孕まされた時に抵抗したのだろう。
「……Aさんが妖術を使うという噂は、本当だったんですね…」
千代がみるみる消えていく痣を見ながらそう呟く。少しは体が楽になったのか、心做しか声音は明るくなっていた。
『…まるで魔女のよう、かな？』
「あっ、そ、そういう意味で言ったんじゃ……！」
『分かってる。それにこれは妖術ではなく呪術だ』
「呪術……？」
『さて、これで治療は終わりだ。立てるか？』
千代に向かって手を差し出すと、彼女はおずおずとその手を取って足に力を入れる。然し反転術式で弱った体までは治せない。上手く足に力が入らなかった千代が崩れ落ちそうになるのを、私は慌てて支える。
「す、すみませ……」
『構わない。焦らずゆっくりと───』
ガチャリ、と何かが開く音が耳に入った。その音の方向はこの地下の扉。扉が開いてすぐ、階段を降りるような足音が聞こえた。まるで隠す気がない。
千代は私の手を握ったまま、音のする方向を目を見開いて見つめていた。その目に宿っていたのは明らかな恐怖だった。
「何やら鼠が一匹入り込んで───君は！」
現れたのは今心の底から会いたかった男、加茂憲倫…羂索だった。この男が羂索だと分かった理由は一目瞭然、その額の縫い目。羂索が持っていた手燭の光で丁度その縫い目がよく見えた。
『初めまして……のはずだが、お前は既に私の顔を知っているようだな、加茂憲倫』
お前の事は全て分かっている、という念を込めて羂索を睨む。……こいつ、いつまで呆けたような顔をしているんだ？
気を取り直した羂索は、まるでこの場を取り繕うように胡散臭い笑みを浮かべる。
「……これはこれは、かの有名な不死鳥殿ではありませんか。えぇ、貴女のその美しい容貌はさすらいの者より聞いたことがありますからね。
ですが然し…いくら生ける伝説と言われる貴女とはいえ、このように夜更けに訪問されるのは些か非常識ではありませんか？」
『ほう？それで？また明日にでもいらしてください、とでも言うつもりじゃないだろうな』
正直なところ、今すぐにでもそのとぼけたような面をする目の前の男を八つ裂きにしたい。だが今ここで理性を保てているのは、かつて兄様が死んだ時に感情の徹底的な支配を学んだからだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 2207人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
うさちゃん(プロフ) - ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"好きです！だいすこ。続き楽しみに待ってます (3月27日 11時) (
レス) @page42 id: bdc57886de (このIDを非表示/違反報告)
ファナやん - おもしろいです!可能なら原作軸や懐玉編もみたいです! (9月10日 15時) (レス) id: 3812986166 (このIDを非表示/違反報告)
りんか(プロフ) - 面白すぎて何回も見返してます！更新再開してほしいです…頑張ってください！！ (8月7日 14時) (レス) @page42 id: d3fb5e7475 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - コメント失礼します！私愛され大好物なので嬉しいです！呪術廻戦のキャラ全員推しなので嬉しいです！更新頑張ってください！ (6月24日 10時) (レス) id: 79dfdf41ef (このIDを非表示/違反報告)
有栖 - めっちゃ面白いです。更新頑張ってください。(*≧∀≦*) (2023年2月5日 15時) (レス) id: e77b6774d0 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蝋燭 | 作成日時：2021年10月1日 23時
