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伍拾伍 ページ21

正直、前世の記憶にもう思い入れはない。


数百年と気が遠くなる年月を過ごしていくうちに、私の精神はこの世界のものへと変わっていった。人の順応能力というのは余りにも優秀だ。


前世とは打って変わった環境で生きていくうちに、この世界に私は馴染んでいった。大切な人を得て、そして失い、復讐に身を委ね、それを成し得て───。


脳裏にいつもいるあの神とやらは癪に障るが、それでも私は兄様を、千代を、仲間を愛している。それはもう、共に生きて死にたいと思うほどに。


だからこその油断だった。私の手から零れ落ちた大切なものに、気付かなかった。


気付けば既に日は沈んでいた。


我武者羅に走っている内に、一つのそこまで大きくない寺に辿り着く。私が椿に教えて貰い一番に目をつけた場所だった。


千代の住む街から少し遠くにある、加茂家保有の寺。付近には村も街も無く、通りがかった人間が寄るか寄らないか程度の寂れた場所である。隠れ家にはうってつけだろう。


寺の塀を軽々と越え、気配を殺して辺りに目を凝らす。


(……チッ、この暗がりじゃ何も見えない)


だが呪胎九相図は特級呪物だ。特級相当の呪力を抑える力は、今の時代には存在しない。
全身の神経という神経を研ぎ澄ませ、呪物の気配を探る。


使う頻度は少ないが、私の目は優秀だ。未来視と透視。この二つを兼ね備えているだけで並の呪術師でも特級を倒せるだろう。


透視を使って遠くに目を凝らす。


実を言うと、あくまで透視であって暗視では無いためあまりよく見えない上に、これは目に呪力を集中させないといけないため、使っている間は身動きが取れないというデメリットがある。


だが幸い、怪しい所を見つける前に誰かに見つかる事はなかった。


透視で一通り見て訝しく思ったのは、この寺にある庭園だ。一見普通の美しい庭園だが、僅かに数人の術師の残穢が残っている。


猫のように気配を消しながら庭園を見て回っていると、建物の際にマンホールにも似た小さな扉があった。扉は苔むし土で汚れているため、見るだけではただの地面と勘違いしてしまうだろう。


だが私の直感は千代がいるのはこの先だと訴えていた。


扉の先から感じる、哀しくも悍ましい呪力。扉に付着したいくつもの残穢。


意を決して私は扉の先へ進んだ。

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設定タグ:呪術廻戦 , 愛され(?) , 見切り発車   
作品ジャンル:ファンタジー
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うさちゃん(プロフ) - ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"好きです!だいすこ。続き楽しみに待ってます (3月27日 11時) (レス) @page42 id: bdc57886de (このIDを非表示/違反報告)
ファナやん - おもしろいです!可能なら原作軸や懐玉編もみたいです! (9月10日 15時) (レス) id: 3812986166 (このIDを非表示/違反報告)
りんか(プロフ) - 面白すぎて何回も見返してます!更新再開してほしいです…頑張ってください!! (8月7日 14時) (レス) @page42 id: d3fb5e7475 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - コメント失礼します!私愛され大好物なので嬉しいです!呪術廻戦のキャラ全員推しなので嬉しいです!更新頑張ってください! (6月24日 10時) (レス) id: 79dfdf41ef (このIDを非表示/違反報告)
有栖 - めっちゃ面白いです。更新頑張ってください。(*≧∀≦*) (2023年2月5日 15時) (レス) id: e77b6774d0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:蝋燭 | 作成日時:2021年10月1日 23時

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