伍拾弐 ページ18
事の発端はなんだっただろうか。
座敷牢で屍と化した女人から目を逸らすように、私はそんなことを考えていた。
・・・・
時は流れ、世は明治の時代となった。人々の文明はより進展し、人口の増加と共に呪いも増えた。まぁ仕事は言う程回ってこないので、別に日々激務に追われてるという訳では無い。特に変わらない平穏な毎日を、人間1人、半人間1人、呪霊2体で過ごしていた。
ある日、私は椿と山の麓の街に出掛けていた。麓の町には洋風な建物が幾つか建っており、昔から街を知っている私からすればなんとも時代の流れを感じる。
「あ、あの!!」
そう声をかけられたのは、街の茶屋で一息ついていた時の事だった。声をかけてきたのは17歳程の若い女性。茶屋の店主の娘さんだ。可愛らしいその目は私を捉えて離さない。
『何か?』
「あ、えっと…これ、どうぞ!」
何の脈絡も無しに渡された、小さな紙包み。開けても?と聞けば女性は頷いたので、紙包みを開ける。
「…
隣にいた椿が紙包みの中の物を見て、そう言った。女性は少し恥ずかしそうに口を開く。
「以前貴女様に助けていただいたお礼です。行商から買った宝物で…」
……あ、この人、ひと月前に荒くれ者に絡まれてた女性か。
私は解いた紙包みを戻し、照れ臭そうな顔をする女性に差し出す。
『宝物なら私が貰う訳にはいかない。気持ちだけで充分さ』
「えっ…わ、私は貴女様に貰って頂きたいのです!」
「そうですよ、A様。貰って差上げては如何ですか?」
『然しだな……』
礼は貰う主義じゃない…と言うつもりが、女性の表情を見て言葉に詰まる。……そんな悲しそうな顔で女の子に見られて無碍に出来るわけないだろ…。
『………ありがとう』
続ける筈だった言葉を変えれば、女性は顔をほころばせるように笑った。じわり、と心が暖かくなる。……こんな感覚は久しぶりだな。呪術師という職業柄、感謝されるという事は殆どない。まぁ、人には見えない奴らを倒しても一般人には分からないのは当然だろうが。
少しだけ女性と話し、私は屋敷へと帰る為に立ち上がる。別れ際、女性はまた来てくださいね!と私に向かってそう言った。
以来、私はよく茶屋に行くようになった。
女性とお喋りをしたり、一緒に菓子を摘んだり……優しく明るい彼女は、私の人生では数少ない友達の、一人になった。
………幸せは壊れる。そんなこと、よく分かっていた筈なのに。
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うさちゃん(プロフ) - ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"好きです!だいすこ。続き楽しみに待ってます (3月27日 11時) (レス) @page42 id: bdc57886de (このIDを非表示/違反報告)
ファナやん - おもしろいです!可能なら原作軸や懐玉編もみたいです! (9月10日 15時) (レス) id: 3812986166 (このIDを非表示/違反報告)
りんか(プロフ) - 面白すぎて何回も見返してます!更新再開してほしいです…頑張ってください!! (8月7日 14時) (レス) @page42 id: d3fb5e7475 (このIDを非表示/違反報告)
もこ(プロフ) - コメント失礼します!私愛され大好物なので嬉しいです!呪術廻戦のキャラ全員推しなので嬉しいです!更新頑張ってください! (6月24日 10時) (レス) id: 79dfdf41ef (このIDを非表示/違反報告)
有栖 - めっちゃ面白いです。更新頑張ってください。(*≧∀≦*) (2023年2月5日 15時) (レス) id: e77b6774d0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:蝋燭 | 作成日時:2021年10月1日 23時