天馬 ページ13
もはやそれは原型を留めていなかった。焦げて真っ黒になり、水分はほぼない。ボロボロと割れた欠片が辺りに散らばっている。そして、この匂い…。
「……なに、これ…。」
クッキーを焼いたつもりが、いつの間にか下手物へと変貌していた。
「どこで間違えた？」
材料も分量も手順も、レシピ通りにやった。オーブンの温度も時間も何度も確認した。その結果が何一つ上手くいっていない。おかしい、絶対におかしい。
「…別の作ろう！」
万が一に備えて、材料はたくさん買っておいた。皮肉にも一瞬にしてやってきてしまったが。ふと、卵が視界に入り、思いついた。プリンならレンジでも作れるし、焦げることはないはず。カラメルソースは砂糖の焦がしすぎに注意すれば上手くいける。
そうと決まればレシピ検索。先に砂糖を焦がし、カラメルソース作り。その後に材料を混ぜ、耐熱コップにカラメルソース、生地の順に入れ、時間と温度を設定したレンジに入れた。暫くして出来上がりを知らせる音が鳴った。胸を高鳴らせながらドアを開けると、
「………私、センスの欠片もないな…。」
私の予想を斜めに越えたプリンが出来上がっていた。なぜか焦げて膨らんでいて、バニラの香りは焦げでかき消されている。つまり、また失敗。
「焦げくせぇなあ。」
背後からの声に振り返ると、鼻をおさえた天馬がいた。一番見られたくなかったのに…！
「これか？」
「あっ…！」
黒焦げのそれに顔を近づけ確認する。隣のプリンも見ると、私に向き直った。
「ある意味、才能だな。」
「うっ…！」
「おい、それなんだ？」
私に言葉の一撃を加えた後、台の上のチョコレートを指差した。あ、チョコの事忘れてた。天馬はチョコレートだと確認すると、溶かせと言ってきた。
「溶かしたけど、どうするの？」
「ん、うまい。」
「ちょっ…！何舐めてるの！」
溶けたチョコレートを天馬は指に絡めて舐めた。市販のチョコレートを溶かしただけなんだから美味しいに決まってるのに。
「どうせ買うつもりだったんだろ？んん？」
…見抜かれていた。こんな悲惨な出来栄えじゃ当然か。
「溶かしただけだが、これも手作りには変わりねえ。来年はもっと上手くなれよ。」
「え？」
「クッキーでも作れるようになったら……」
私の手をとり、指にチョコレートを絡め、余裕たっぷりの笑みで私を見つめる。
「俺の嫁にしてやる。」
そう言って、私の指を舐めた。
*20170214
ハッピーバレンタイン！
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Aris - 天馬の感情がとても可愛いかったです( ^ω^ ) (2021年5月17日 22時) (
レス) id: 07b3866fc0 (このIDを非表示/違反報告)
藤田(プロフ) - 紅兎さん» 紅兎さんありがとうございます(´；д；｀) 以前よりも遅くなってしまいますが更新がんばります！ (2019年12月4日 22時) (レス) id: dd4451f660 (このIDを非表示/違反報告)
紅兎(プロフ) - 主さまのペースで更新頑張ってください！いつまでも待ってます！ (2019年12月1日 14時) (レス) id: 83a25d3fd1 (このIDを非表示/違反報告)
藤田(プロフ) - 夜桜さん» 夜桜さん、コメントありがとうございます。消化頑張ります＞＜ かなり不定期な更新ですが、気長にお待ちいただければと思います！ (2017年12月16日 15時) (レス) id: ec78dea903 (このIDを非表示/違反報告)
夜桜 - 初めまして！とっても良かったです！リクエストの消化頑張ってください！更新待ってます！ (2017年12月12日 15時) (レス) id: e7a9357e65 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：藤田 | 作成日時：2017年1月17日 23時
