にちくんばっくほるべちくるという男 vol 5

大丈夫じゃない ページ29

本当に言いたくなかった。

ニックンがこの事を知ったら
コトの重大さを
私なんかより
よく知ってる彼の方が

何倍も
ショックを受けること
知ってたから。


「ヌナ・・？」


だけど黙ってるわけには
いかなかった。


「ニックン・・あのね」


ニックンを驚かせない言い方を探すけど
全然見つからない。

なんて言えばいいの。


それに・・
本当に・・会えなくなってしまう。


そう心に浮かんだだけで
苦しくて堪らなくなった。


「私・・ニックンに会いたい」


すぐ・・そこにいるのに。


「・・だけど会えない・・・？」


ニックンは
パパラッチの存在に気付いてない。


「・・驚かないで聞いて」


怯える気持ちのせいで
胸が痛い。


「何」


目を閉じて
心を落ち着ける為に
細く長い息を吐いてから・・言った。


「そこにね・・
カメラを持ってる人がいた」


ニックンが作った僅かな沈黙を
とても長く感じる。


「撮られたの？」


「それはわからない
だけど、ずっと後をつけられてた」


「どうして早く言わなかったの」


「気のせいかも知れなかったから」


そこから
少しの間
ニックンは黙ったままだった。


「ニックン・・大丈夫・・？」



「どうかな・・大丈夫じゃないかも
・・後でまた電話する」



そう言って
ニックンの方が電話を終わらせた。


これが現実だなんて
信じたくない。

私はそう思ってる。


黙ったままの私を
心配そうに見つめるヨンジェ。


「何て言ってた・・？」


「大丈夫じゃないかも・・って」


そう言いながら
はっきりわかった。

そう・・大丈夫じゃない。


写真はまだ撮られてないかも知れない。

だけど

ニックンと私は崖っぷちにいる。



「大丈夫じゃないみたい・・
ニックンと私」


そう言葉にしたら
みるみる瞳の奥が熱くなった。


嗚呼・・

また・・泣いてる。

もうダメだ・・私。


すぐに溢れて零れ落ちてく涙を
我慢しようともしない私に

ヨンジェは慌てて
私を抱きしめた。


「泣かないで、Aさん」



その日の３日後
ニックンは再び
仁川からタイに向けて飛び立った。

タイでの映画撮影が始まり
結局その日から29日間
私達は会えなかった。

ニックンとは
電話で話すことは出来たし
ビデオ通話もした。


会うことは出来なかったけど
私達の気持ちは通じ合ってた。



ニックンがタイに行ってから数日後
仕事から帰ると
うちのポストに1通の封筒が届いていた。

差出人はにちくんばっくほるべちくる。

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