ページ ページ12
「ありがとう」
「ううん。ね、キスしてい?」
「え、」
誰も見てない。
耳元で囁かれた。その声は私を甘い気持ちにする心地よい音程。
確かに夏の期末テストの終わった図書室はほとんど人もいなかったし、私たちの立っている本に囲まれたこの場所は死角だった。倫也先輩はそれをわかって言っている。ぼんやりと抜けているようで、そうじゃない。そういう人だから。
こく、と思わず喉を鳴らす音をさせてしまって、それを合図にしたように首を少し傾げた彼の顔が近づき、唇が重なる。触れるだけの口付けをいち、に、さん、よん、
「.........ん、」
あむ、あむ、と彼の薄く形の良い唇が私の唇を挟み、遊び始める。
ちゅ、ちゅ、と音を立てて吸い付いて、その舌先で閉じた私の唇をおす。開いて、という意味。
薄く目をあけると、ぱちと目が合い、私の表情を見ていたんだろうことがわかるから耳が熱くなった。
(恥ずかしい)
(こんなところで)
(もっと軽い、キスだとおもったのに)
さっき香ったグリーンの香りは、倫也先輩の香水のかおり。部活のあと、私に会う前にいつもつけているみたいだった。私を本棚を背に押しやり、両肩を柔らかく持つ目前の彼からは、その香りが強く鼻腔を刺激して、ああ、私この香りがだいすきだと、心も体も解けていく。すう、と鼻で息を吸い込んだ。
「ん...........はぁ.......ふっ.....」
上手に滑り込んできた舌が私の口内を優しく、丁寧に、あますところなく、伸びてくるから、頭の芯が痺れて合間に呼吸をするのがやっとだった。
何度も角度を変えてちゅ、ちゅと音をさせながら、絡ませてくる舌に倫也先輩しか知らない私はほとんど応えることができない。
本を胸に抱えたまま、片方の手で必死に彼のシャツの胸元をぎゅうと握るだけだ。
自然と内股をきゅっと閉じてしまう意味を、私はまだよくわかっていないから。
(こんなキス....)
(こわい)
柔らかい舌の感触が口内を蠢いて、それを純粋に快感にかえられるほど深い口付けに慣れていない私は、いつもと違う空気が恐ろしくなってバサ、本を落とし両手で彼の胸を押した。
231人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ヨーコ(プロフ) - ドキドキ止まりません!最高です!更新楽しみにしています♪ (2020年4月4日 20時) (レス) id: b9e84898e5 (このIDを非表示/違反報告)
その(プロフ) - ゆんさん» ありがとうございます〜!楽しみにしていただけて嬉しいです。そろそろ終わりに向けて、と思ってますが、もう少しお付き合いくださいませ♪( ´▽`) (2020年2月6日 21時) (レス) id: 55b0c33bda (このIDを非表示/違反報告)
その(プロフ) - ショウさん» いつもありがとうございます〜!寒いの苦手なのは倫也さんのリアルを意識してみました( ´ ▽ ` )もうしばらくお付き合いくださいませ! (2020年2月6日 21時) (レス) id: 55b0c33bda (このIDを非表示/違反報告)
ゆん - 更新とても嬉しいです!題名が2匹と書かれていたのでドキドキしながら読みました!そのさんの作品を見るのが今の私の楽しみです!少女漫画のようにきゅんきゅん毎回させてもらえて幸せな気持ちになります!これからも応援しています! (2020年2月6日 15時) (レス) id: 57aaad4ad9 (このIDを非表示/違反報告)
ショウ(プロフ) - 感想遅くなりましたが、らいおんの告白とても胸に響きましたっ!2匹のやり取りの続きもとても楽しみに待ってます、おおかみが寒がりなところ保温ポット愛用されてるのでピッタリですね 笑 (2020年2月5日 15時) (レス) id: bd7e526c97 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:その | 作成日時:2019年12月10日 12時