春をみつける (ページ9)

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「だけど配信がなくて。まだ見れてはないんだ」と俺が言うと『あ、じゃあBlu-ray を貸すよ！私、持ってるの！』と瀬尾さんが間髪入れずそう言った。

予想外の返答に目を瞬かせていると、ふと冷静になったように瀬尾さんが『…ごめん、こういうとこだよね、』とまた自嘲するように肩をすくめる。

そんな彼女に慌てて「違う、そうじゃなくて。ごめん、予想外だったから驚いて。…いいの？逆に、」と俺は恐る恐る言葉を紡いだ。

『え、もちろん！いいの？はこっちのセリフだよ。私の押し、強すぎない？無理、してない？』

「全然。ほんとにあれから興味持って、見たかったんだよ。配信ないならレンタルかな、と思ってたからむしろありがたい」

『う、嬉しい……ありがとう…！』

胸の前で抱えたノートを一層ぎゅっと抱えて、感動したように顔を綻ばせる瀬尾さんに釣られて、俺の顔にも笑顔が広がる。

今日は初めて見る表情がたくさんで、また一段階彼女と打ち解けたような、そんな気がする。

さっさと教室に戻ろうなんて考えていたことなどすっかり忘れて、そんなことを考えていると『じゃあ、今度教室に渡しに行くね。4組、だったよね？』と瀬尾さんが問うた。

覚えててくれたんだ、なんてそんなことを考えて反射的に「そうだよ」と返しそうになった口が、開きかけて止まる。

瀬尾さんは、ヒョンジンのこと、知っているのだろうか。

ふっ、とそんなことが頭によぎって、大層おモテになる友人の顔が浮かぶ。

…ヒョンジンは、瀬尾さんのことを知らなかった。
それなら2人に接点はないわけで、瀬尾さんだってヒョンジンのことを知らないはずだ。

だけど、あのヒョンジンだから。
それに、瀬尾さんがヒョンジンのことを今は知らなかったとしたって、

__この子もヒョンジンと会ったら、ヒョンジンのことを好きになるのかな、

頭が勝手にそう結論づけたとき、口ではもう言葉が出てきていて、

「…いや、俺が受け取りに行くよ。…貸してもらう立場だし」

そんな風にそれっぽい理由をつけて、くだらない可能性から瀬尾さんを遠ざけた自分に少しの情けなさを感じると同時に、ほんとに俺、なにしてんだろう、と初めての感覚に戸惑いを感じた。