04-変わらない ページ5
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部署のほとんどが参加する飲み会は二つの大きな部屋を貸し切りにした掘りごたつの居酒屋だった。
先にチーフに会費を渡して、千切君と共に空いている席を探す。
「ばらばらに座るしかないな。綾瀬さん、どうする?」
「ええ、千切君と一緒がいいんだけど……」
「…だよね、俺も」
2列の長机、入り口から近い席に後輩が集まって、チーフたちが座る幹部席は窓際。
その他の真ん中は先輩と、新入社員、それから彼も居た。
「あ、お嬢たち来たかー! こっち座りな!」
「おっ、ちょうど空いたな。あそこ座ろうぜ」
「えっっいや私は」
先輩たちが私たちの到着に気付いて手をあげた。
丁度空いた二つの席は、幸か不幸か彼の目の前だ。
一旦身を引いた私に首を傾げて、千切君が手を引く。
無情にも、この世でもう思い出したくないと思っていた彼は、8年の年月を経て私の斜め前に現れた。
「お前らまた二人で仲良しだな〜。
私らとも心開いてくれよお嬢たち」
「それよかアンタ達御影くんに挨拶してないでしょ。自己紹介しな!」
「初めまして! ご挨拶遅れてすみません、御影です」
隣の千切君が涼しい顔して彼に挨拶をしていた。
「よろしくお願いします」店員さんから運ばれたビールを受け取って、子気味良い音がチン、と鳴った。乾杯の合図。
「……綾瀬です」
「綾瀬さん! よろしくお願いします、御影です」
わざわざ飲み物を置いて左手を差し出してきた。
8年間の月日は案外私の思っている以上に経過していたのかもしれない。
前髪で顔を隠すように、俯きがちにその手をおずおずと取った。
ぎゅ、と握られる。その手は、何も変わらない。
青筋が張って、緑がかった静脈が若干浮かび上がった甲。
やけに熱くて、少し痛い位の力加減で私の左手を包んだ。
「綾瀬さんは、お酒飲まないんすか?」
「っ、……お酒は、苦手で」
「…そうなんだ」
一瞬細めた瞳の奥がぎらついた、気がした。
大丈夫。まだ気づかれていない。
だって最後に彼に会った時の私は、今とは比べ物にならない位太っていたし、化粧っ気だってなかったし、もっと明るかったし。
ウーロン茶を流し込んだ時、
私のつま先に誰かの足が触れた。
少なからず肩を揺らして顔を上げれば
御影くんが、前と変わらない顔で私を見つめていた。
彼が私の、恋人だった時の、顔で。
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おそらまめ(プロフ) - 砂時計さん» 砂時計様。よくわかってらっしゃる…。完璧な男が好きな女性を囲う為に色んな手を使って縋りつく姿をどうしても書きたくて(笑)夢主はきっと彼の思惑なんて一生気づかないまま捕まってるんです。それがいい。 (2023年5月6日 11時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
砂時計(プロフ) - コメント失礼致します。我慢できず…言葉を綴らせてください。 甘やかして、それでも駄目なら、と縋り着く執着御曹司が素晴らしすぎてしんどいです。夢主ちゃんもがっつり捕まってて、玲王の策略なのかなと妄想すると更にエモい。これからも応援しております😭♡ (2023年5月4日 11時) (レス) id: 9f48da2d13 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ぺイさん» ペイ様、コメントありがとうございます!楽しんで頂けてるようで嬉しいです。沢山食べて味わってくださいね!次の更新をお待ちください。 (2023年5月3日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
ぺイ - う、うあ〜!おいしすぎぃー!本当にありがとうござますっ!これからも追います! (2023年5月2日 18時) (レス) @page40 id: 470dc29d1f (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - おにぎりさん» おにぎり様、コメントありがとうございます。ちゃんと重重な様子を描けてるか不安でしたがそう言って頂けて安心しました、こちらこそ大変光栄です。応援ありがとうございます、次の更新をお楽しみにお待ちください。 (2023年4月15日 19時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年4月6日 19時