28-終着点 ページ30
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まあ、私は彼に思いを伝えていないし、彼も好意を見せてくれてはいるけど、応える気はないし。
こうして彼の優しさに甘えて一緒に過ごしていられるのも、今の内だけだから。
「…Aさん、どした」
「え、何でもないよ」
「なくねえだろ。ご飯美味くなかった?」
「いやいやご飯は美味しいよ!」
箸が床に落ちるのも関係なく、彼は手を伸ばして私の右手を掴んだ。
心配の表情の中に、困惑と焦りが見える。
私の心中を察知したのかな。困らせてしまった。
「頼む。Aを傷つけたくねえの。
なんでも言って、叶えるから」
「…玲王くん。優しくするの、やめて」
「は?」
「流された私も悪いけど」
「私好きな人がいるから」
彼についた初めての嘘だった。
だってこのままじゃ私玲王に甘えてばかりで、また何もできない、あの頃の私に元通りだ。
玲王は優しい。あの頃と変わらず。
だけどその優しさは私をいつも置いていく。
一人になった瞬間に感じる、圧倒的な侘しさと劣等感を、もう味わいたくない。
「本気で、…言ってんの」
「うん。本気」
「誰。名前は」
「玲王くんには言えない」
「何で? 俺が嫉妬するって分かってるから? そいつの事調べ上げて殺そうとしてるから?」
「玲王くん、やめて」
「おかしいだろ、俺の知らない男と、お前が幸せになんの黙って応援できると思うか。俺以外がお前の隣に立つなんて許せねえ」
血の気が感じられない真っ白な顔で淡々と彼は言った。
美しい目は見開かれて、握られた手に落とされている。
このままどこかに連れ去られてしまいそうな薄気味悪さだった。
「…ごめん、帰るね」
「帰らせねえ。お前の口から名前を聞くまで、俺の方が好きだって言うまで」
「やだ! 玲王くんやめて!」
「何で…俺の方がずっとお前を幸せにできんのに。ずっと好きなのに」
側に寄った彼は私を抱き上げてソファに押し込める。
立ちどころに服を捲り上げられ、至る所に赤い痕を残される。
聞く耳持たず。私は彼の両頬を掴んで、無理やり唇を押し付けた。
「…、これ以上やったら、嫌いになる」
「……ごめ、A、ごめん」
「帰る。3日間ありがとうございました」
呆けた顔で私を覗き込んだ彼は正気に戻ったみたいだった。
私の言葉を聞いて血相を変えて頬に手を伸ばされたが、柔く振り払って、自らの意思で玄関を出た。
傷ついた彼の顔が忘れられない。
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おそらまめ(プロフ) - 砂時計さん» 砂時計様。よくわかってらっしゃる…。完璧な男が好きな女性を囲う為に色んな手を使って縋りつく姿をどうしても書きたくて(笑)夢主はきっと彼の思惑なんて一生気づかないまま捕まってるんです。それがいい。 (2023年5月6日 11時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
砂時計(プロフ) - コメント失礼致します。我慢できず…言葉を綴らせてください。 甘やかして、それでも駄目なら、と縋り着く執着御曹司が素晴らしすぎてしんどいです。夢主ちゃんもがっつり捕まってて、玲王の策略なのかなと妄想すると更にエモい。これからも応援しております😭♡ (2023年5月4日 11時) (レス) id: 9f48da2d13 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ぺイさん» ペイ様、コメントありがとうございます!楽しんで頂けてるようで嬉しいです。沢山食べて味わってくださいね!次の更新をお待ちください。 (2023年5月3日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
ぺイ - う、うあ〜!おいしすぎぃー!本当にありがとうござますっ!これからも追います! (2023年5月2日 18時) (レス) @page40 id: 470dc29d1f (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - おにぎりさん» おにぎり様、コメントありがとうございます。ちゃんと重重な様子を描けてるか不安でしたがそう言って頂けて安心しました、こちらこそ大変光栄です。応援ありがとうございます、次の更新をお楽しみにお待ちください。 (2023年4月15日 19時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年4月6日 19時