21-不穏 ページ23
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結局眠れなくて、眠る玲王に「お風呂入る」と告げて腕から抜け出した6時。
7時前に脱衣所へ出ると、知らぬ間に新しい下着と服が置かれてあってため息を吐いた。
風呂場を出ると昨日とは違う朝の香りが食欲を刺激する。
キッチンで覚醒しきった玲王が鍋を突いているのが見えてまた私はため息を吐いてしまった。
「Aさん、おはよ。白ご飯あと10分で炊けるから待ってな」
「…おはよ。いつの間に新しい服用意してくれたの」
「さっき」
「昨日も、私玲王くんの用意してくれた服だったんですが」
「怒んねえでよ。だって同じ服は嫌だろ?」
駄目だ。またあの頃みたいに自分をダメにしてしまう。
玲王に甘やかされて何もできなくなった、8年前の自分に。
「今日は早く起きたから家に帰るつもりでした!」
「え、何で?」
「何でって帰らないとだから。会社終わりにも影響出るし」
「うん、何で帰る必要あんの? 電車で三鷹まで帰んのと俺ん家車で来んのとほぼ時間変わんねえじゃん」
「違う、そうだけど自分の持ち物とか…!」
「俺が用意したのじゃ、やっぱ気に入らねえ…?」
雨に濡れた犬のような瞳で撃ち抜かれて、色々間違っている筈なのに私は何も言い返す事ができなかった。
その内ご飯をよそわれて、大人しく昨日の食卓につく。
今日とて豪華な一汁三菜お膳に箸をつけながら、私はどうにも腑に落ちない気持ちでいた。
何だかうまい事言いくるめられた気がする。うん、実際美味い。
心のどこかに拭いきれない違和感を探して、はた、と手を止めた。
――…あれ、私三鷹に住んでるって、言ったっけ。
「……玲王くん、いつ私が三鷹だって知ったの」
同じく正面で同じお膳をついていた彼も固まる。
じっと見つめて、私の背中に悪寒が走った時、彼はあどけなく笑った。
「…ふはっ、覚えてねーの? 飲み会の時タクシーで言ったじゃん、三鷹までって。
まあ結局俺の家に送っちゃったけど」
「…え、そうだったの?」
「おう。酒飲むと記憶無くすって面白えなー。
…けど昨日の事は、忘れてねえもんな?」
「っ……よく覚えてません!」
そう言って俯くと頭上から彼のけらけら笑う声が落ちてきて、恥ずかしながらもどこか安心した。
同僚にも言わないようにしてたんだけど。
お酒って何でも暴いちゃうなあ、怖いこわい。
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おそらまめ(プロフ) - 砂時計さん» 砂時計様。よくわかってらっしゃる…。完璧な男が好きな女性を囲う為に色んな手を使って縋りつく姿をどうしても書きたくて(笑)夢主はきっと彼の思惑なんて一生気づかないまま捕まってるんです。それがいい。 (2023年5月6日 11時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
砂時計(プロフ) - コメント失礼致します。我慢できず…言葉を綴らせてください。 甘やかして、それでも駄目なら、と縋り着く執着御曹司が素晴らしすぎてしんどいです。夢主ちゃんもがっつり捕まってて、玲王の策略なのかなと妄想すると更にエモい。これからも応援しております😭♡ (2023年5月4日 11時) (レス) id: 9f48da2d13 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ぺイさん» ペイ様、コメントありがとうございます!楽しんで頂けてるようで嬉しいです。沢山食べて味わってくださいね!次の更新をお待ちください。 (2023年5月3日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
ぺイ - う、うあ〜!おいしすぎぃー!本当にありがとうござますっ!これからも追います! (2023年5月2日 18時) (レス) @page40 id: 470dc29d1f (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - おにぎりさん» おにぎり様、コメントありがとうございます。ちゃんと重重な様子を描けてるか不安でしたがそう言って頂けて安心しました、こちらこそ大変光栄です。応援ありがとうございます、次の更新をお楽しみにお待ちください。 (2023年4月15日 19時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年4月6日 19時