15-お誘い ページ17
.
ただのグレープ味のキャンディに違いない。
だけどそれは、私にとっては特別なものだったのだ。
高校の時に、私が玲王に初めてあげた思い出のもの。
喧嘩した時に、仲直りの印として玲王に渡した、かけがえのない。
「……これ…」
「ごめん! 俺のせいだよな、嫌いな男から…」
目頭がじゅんと熱くなって、喉がひくひく鳴った。
あの時の事は嘘のように、目の前の彼は 手の甲で頬を抑えつけてしゃくりあげる私の目線に合わせて狼狽えている。
「ごめんな、こんなん貰っても嬉しくないよな」
「っやだ、違うの」
背中を曲げて、私に触れるか迷っている大きな手はやがて控えめに私の手の中にあるキャンディを引っこ抜こうとして。
ちょん、と触れた指先ごと握り込めば、私を覗き込む丸い目は困惑の色で染まる。
「御影、くん」
「…なあに、綾瀬さん」
「良かったら、今からご飯行きませんか」
玲王は空いた左手で私の目蓋を優しく擦る。
そして掴んだ指先を引っこ抜くと、私の左手ごと手のひらで包んだ。
「…ごめん、綾瀬さん。
俺、もうさっき食べちゃったわ」
「っ……そう、だよね! 時間、遅いし…ごめ」
「だから、1杯付き合ってくれねえ?」
断られたことの羞恥心で途端に涙は引っ込む。
だけど逃がさない、とでも言うように彼は私の左手を強く引いてそう言った。
お酒の付き合いなら断るという私の主義は今日で崩れてしまった。
「御影くん、本当に良いの?」
「ああ、だって綾瀬さん店のじゃ記憶飛ぶだろ?」
「…言葉も出ません」
「ふはっ、さーどうぞお姫様。昨日の通り何もねえ部屋だけど」
「お邪魔します…」
彼の車で再び訪れたタワーマンション。
日本の高い近代化の技術を全て詰め合わせたみたいな、30階建ての建物の中に入って厳重なセキュリティをパスした後、玲王はエレベーターで30のボタンを押した。
昨日は記憶が無いし朝の間はばたばたしていてまじまじと内装を見る余裕はなかったけど、改めてこうして素面で眺めると恐ろしい場所だ。
「綾瀬さんはお腹減っただろ? 何か作るから、待っててな」
「何から何まで…ありがとう」
「いーよ。嬉しいから」
玲王は奥のリビングに消えていく。
ホームパーティが開けそうな十分広いダイニングのソファにぎこちなく座って、私はすることもなく大きい窓から夜の東京を一望に収めていた。
.
767人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
おそらまめ(プロフ) - 砂時計さん» 砂時計様。よくわかってらっしゃる…。完璧な男が好きな女性を囲う為に色んな手を使って縋りつく姿をどうしても書きたくて(笑)夢主はきっと彼の思惑なんて一生気づかないまま捕まってるんです。それがいい。 (2023年5月6日 11時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
砂時計(プロフ) - コメント失礼致します。我慢できず…言葉を綴らせてください。 甘やかして、それでも駄目なら、と縋り着く執着御曹司が素晴らしすぎてしんどいです。夢主ちゃんもがっつり捕まってて、玲王の策略なのかなと妄想すると更にエモい。これからも応援しております😭♡ (2023年5月4日 11時) (レス) id: 9f48da2d13 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ぺイさん» ペイ様、コメントありがとうございます!楽しんで頂けてるようで嬉しいです。沢山食べて味わってくださいね!次の更新をお待ちください。 (2023年5月3日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
ぺイ - う、うあ〜!おいしすぎぃー!本当にありがとうござますっ!これからも追います! (2023年5月2日 18時) (レス) @page40 id: 470dc29d1f (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - おにぎりさん» おにぎり様、コメントありがとうございます。ちゃんと重重な様子を描けてるか不安でしたがそう言って頂けて安心しました、こちらこそ大変光栄です。応援ありがとうございます、次の更新をお楽しみにお待ちください。 (2023年4月15日 19時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年4月6日 19時