14-揺さぶられ ページ16
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資料準備室から戻った後、先に戻っていた彼は嘘のように溌溂とした顔でチーフと面談していた。
「…綾瀬さん、どーした? 何か体調悪ぃの?」
「あ、いや大丈夫」
千切くんの心配する瞳から逃げる為に顔を振った。
誤魔化して作り笑い、デスクに戻る。
未だに触れられた所がじんじんと熱を持っている。
油断した。あんな風に触れてくるなんて。
何かがおかしい。
名状しがたい違和感が私の体を突き抜けていた。
「___綾瀬さん、頑張ってますね。
あまり無理はしないように。お疲れ様、お先に」
「はい、係長お疲れ様です」
彼の事を考えていると全く業務が手につかず、明日までの資料の作成に追われた。
係長の挨拶を聞いて時計を目視する。
気付けば時刻は8時を過ぎていた。
もう定時から2時間も過ぎていた。
会社の規定により、あと30分でパソコンが強制シャットダウンされるため急がなければ。
終わらない分は持ち帰りで仕事しよう。
がた、
部署の建付けの悪い扉の鍵が開いた音がした。
反射的にそちらを見やると同時に私服姿の玲王が顔を覗かせた。
お互い認識して同じように目を見張る。
先に動いたのは玲王だった。
「綾瀬さん、残業してたのか?」
「…あ、ああそうなの。まだ終わらなくて」
「そっか。遅くまでお疲れ様」
以外にも淡泊に話は進んだ。
昼間の事を気にしているのは、というか忘れられないのは私だけなんじゃないかと錯覚する。
「御影くんは、どうして?」
「忘れ物しちゃって。あ、あった」
「なるほど」
「じゃ頑張ってな。また明日」
「あ……お疲れ、」
朗らかな顔で、数メートル離れた彼は一度も近づくことなく、また静けさを置いていった。
何を、期待してたんだろう。
昼間彼に負の感情を抱いた筈なのに、今は彼があまりにもあっさりと帰ってしまうものだから、別の感情が渦を巻き始めている。
「……はあー。…帰ろ、」
鞄からUSBを取り出して転送すると、さっさとパソコンを終了させた。
心に一端の陰りを残してカーディガンを羽織る。
部署の鍵を返して会社から出ようとした時に
前から小走りでこちらへ向かってくる人影を見つけた。
「良かった、まだ居た」
「え…御影くん? どうしたの、」
「今日の事、謝りたくて。
こんなんじゃ伝わらねえと思うけど」
彼は私の手を掴んで、何か握らせる。
見るとそれは、棒付きのキャンディだった。
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おそらまめ(プロフ) - 砂時計さん» 砂時計様。よくわかってらっしゃる…。完璧な男が好きな女性を囲う為に色んな手を使って縋りつく姿をどうしても書きたくて(笑)夢主はきっと彼の思惑なんて一生気づかないまま捕まってるんです。それがいい。 (2023年5月6日 11時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
砂時計(プロフ) - コメント失礼致します。我慢できず…言葉を綴らせてください。 甘やかして、それでも駄目なら、と縋り着く執着御曹司が素晴らしすぎてしんどいです。夢主ちゃんもがっつり捕まってて、玲王の策略なのかなと妄想すると更にエモい。これからも応援しております😭♡ (2023年5月4日 11時) (レス) id: 9f48da2d13 (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ぺイさん» ペイ様、コメントありがとうございます!楽しんで頂けてるようで嬉しいです。沢山食べて味わってくださいね!次の更新をお待ちください。 (2023年5月3日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
ぺイ - う、うあ〜!おいしすぎぃー!本当にありがとうござますっ!これからも追います! (2023年5月2日 18時) (レス) @page40 id: 470dc29d1f (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - おにぎりさん» おにぎり様、コメントありがとうございます。ちゃんと重重な様子を描けてるか不安でしたがそう言って頂けて安心しました、こちらこそ大変光栄です。応援ありがとうございます、次の更新をお楽しみにお待ちください。 (2023年4月15日 19時) (レス) id: bb8d3426f9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2023年4月6日 19時