第参拾伍話 人間らしさ ページ37
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先のことを考える俺に対して、兄ちゃんは首を傾げた。
『おれは…だいじょう、ぶ、だよ…?』
え、と思って顔を上げると、兄ちゃんは手がない左手を俺の目の前に差し出した。
急に眼前が血だらけになって、思わず「う、」と声を上げてしまった。
何をするつもりなんだろう。
そう思っていると、兄ちゃんの手首から煙が出てきた。
「えっ!?」
『ちゃんと、治る…から』
手首が完全に煙に覆われて、見えなくなる。
そのことにも驚いたが、俺はそれ以上にあることに驚いていた。
「(兄ちゃん…話し方が…!)」
『、ほら…治ってきた』
煙が徐々に晴れてきて、手が顕になっていく。
覗き込めば、親指の辺りまで手が生えてきていた。
「え、え…?こ、これ、」
『俺は鬼だから…もう、すぐに治るよ』
完全に治った手を差し出したまま、兄ちゃんはにっこりと微笑んだ。
その笑顔が、一瞬。
ほんの一瞬だけ。
鬼になる前の兄ちゃんと、重なって見えて
治ったばかりの左手をがしっと掴んだ。
兄ちゃんの顔が驚きに染まる。
「……あ、…ご、ごめん…」
兄ちゃんが、人間に戻ったのかと思った。
ちゃんと呂律が回ってたし、あの寂しそうな笑顔ではなかったから。
でも、そんなことはなくて。
綺麗に治った左手が、現実を突きつける。
「(…どうすればいいんだろう。どうしたら、兄ちゃんと禰豆子を元に……)」
((ぐぅ〜〜〜〜…
「………え?」
俺の思考を遮ったのは、明らかに腹の鳴る音。
俺じゃない。
ちら、と前を見ると、恥ずかしそうにお腹に手をやる兄ちゃん。
『…ぇ、と…お、ぉなか、すいた…な…』
「……ご飯、温めよっか…」
兄ちゃんを見て思考が停止したまま、そんなことを言っていた。
もう、考えていたことは忘れてしまっていた。
兄ちゃんが空腹状態なのに、俺に襲い掛からないことだってその時は気にならなかった。
だって、だってあまりにも。
兄ちゃんが、人間らしかったから。
**************
『な、ぁんら…ごはん、あったんだぁ……』
「ご、ごめん…言わなかったから」
『ぁいじょ、ぶ。はやく、たべよ?』
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しろりん(プロフ) - 鬼滅の刃の原作沿いの中で一番この作品がお気に入りです...。兄主さん...素敵なお兄さんですね...。更新頑張ってくださいね!...早く善逸や伊之助にも会ってほしいな...。 (2022年5月7日 10時) (レス) id: 5f15beaff6 (このIDを非表示/違反報告)
猫を愛している者 - 続きは書かないんですか? (2020年8月15日 22時) (レス) id: f0ad13efd7 (このIDを非表示/違反報告)
南無南無(プロフ) - そうだったんですね!良かったです…!! (2020年2月22日 22時) (レス) id: e2dd911ff4 (このIDを非表示/違反報告)
仍(プロフ) - ヤトさん» ありがとうございます!返信遅れてしまって申し訳ありません… (2020年2月16日 14時) (レス) id: dec789af05 (このIDを非表示/違反報告)
仍(プロフ) - 南無南無さん» 終わってないんです!すみません!!漫画が手元に無いとお話が書けなくて、なかなか更新出来ずにいます…本当に申し訳ないです…更新お待ち下さい!! (2020年2月16日 14時) (レス) id: dec789af05 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:仍 | 作成日時:2019年9月16日 14時