【鬼滅の刃】鎹烏の訓練士【冨岡義勇】

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夜、久し振りにゆっくりとお湯をいただいて、髪を乾かしていると、戸口からくぐもった声が聞こえた。

「A姉ちゃん、いるかい？」
「…烏旭？」

やはり元気が無いように感じる。烏旭は反抗期も思春期も感じさせない素直で明るい少年であるので、いつも元気良く挨拶をするし、戸口から誰かを呼ぶときは声を張る。くぐもってはっきりと聞こえない事なんて、今まで無かった。一瞬誰かわからなかったくらいだ。この村で私の事をA姉ちゃんなんて呼ぶのは烏旭だけだから間違いないだろうけれど。

「どうしたの。」
「あ、A姉ちゃん、あの…、」

戸を開けて問うと、烏旭は昼間のように気まずそうに目を逸らした。この村の元気印に一体何があったというのだろう。

「…あの、水柱様の…、…えっと、そうだ、爺ちゃん烏の様子はどうだい？」
「寛三郎さんの？特に問題無いと思うけれど…。
　どうして？」
「あ、いや、元気ならいいんだ…。」

どうも様子がおかしい。目が合わないし、はっきりしない物言いは烏旭らしくない。単なるお年頃というものだろうか。それにしては唐突過ぎる。この質問も唐突過ぎる。何故今寛三郎さんの話題？

「…烏旭。どうしたの。具合が悪いの？」
「違うよ…。
　…なあ、A姉ちゃん、水柱様とは、仲良しかい？」
「水柱様？冨岡様と？私が？」
「うん…。」
「別に…、仲良しなんて、畏れ多い事…。」

確かに文を交わし始めてからもう一年近くになる。だからと言って仲良しと言えるほどでもない。未だに丁寧に挨拶を書くし、言葉遣いだって最初の頃と変わらない。そう、変わらないのだ。

「私は只の烏匠であちらは鬼殺隊の柱様よ。」
「そうなのかい…？でも、あんなに嬉しそうな顔で手紙を読んでいただろう。」
「嬉しそうな顔？私が？」

そんな顔をしていたのだろうか。何故？そんなに可笑しい話が書いてあったのだろうか。特段何かそんなに嬉しい事が書いてあった覚えはないのだけれど。そもそも表情の動きにくい私が、端から見て判るほど嬉しそうな顔をするだろうか。感情が乏しいのではないけれども、表情の変化に乏しいのだ。

「俺は、…A姉ちゃんのあんな顔初めて見たから…、だからてっきり、…。」

よくない。この先は言わせたらいけない。考えてもいけない。私はこの村の、鬼殺隊の烏匠だ。

「…烏旭。あなたが考えているような事は何も無いのよ。
　もう遅いからお帰りなさい。」

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