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「着いたな。」
「ええ、着きましたね…。」
朝早く出立し、途中食事と休憩を挟みながら、日が沈み始めようかという時間、御屋敷に辿り着いた。産屋敷様の御厚意で、烏匠は毎回この御屋敷に泊まらせていただく事になっている。歩き続けた疲労もなかなかのものであるし、ここで一息吐いてまた藤襲山に向かうことを考えれば、この御厚意は本当にありがたい。
「ごめんください!」
すう、はあ、と一つ深い呼吸をし、烏末さんは声を張った。広い御屋敷であるので、時として何度かこうしなければならない事もあるが、今回はすぐに御内儀がお出でになった。いつ見ても凛として美しい方である。
「ご挨拶に上がりました、烏匠でございます。
あまね様もお変わりないようで…。」
「ご無事で何よりです。どうぞお入りくださいな。」
促され、門から入る。立派な御殿ではあるが、だからといって必要以上に豪奢に飾り立てているわけではない。大きな力を持っていながらこのように慎ましやかなところもまた、産屋敷様が慕われる所以であろうと思う。華族様やお金持ちの御屋敷は、はいからな造りのものも多いし、あれはあれで勿論素晴らしいものだと思うけれど、産屋敷様の御屋敷のようなものの方が落ち着くのだ。
産屋敷様のいらっしゃる御部屋にお通しいただく間、村長殿はお元気か、困っていることは無いか、とよく気に懸けてくださる。御内儀は以前村にも来てくださった事がある。少々遠い上に林を抜ける事になるから、私のような猿娘はともかくとして、このような女人にはなかなか大変だと思われるが、御一人で御足労くださったのだった。
「失礼致します。烏匠の方々がいらっしゃいました。」
御内儀が襖の奥に声をお掛けになると、奥からなんともやわらかな落ち着いた声で返事があった。如何せん普段聞いているのがお世辞にも美しいとは言い難い烏の声であるので、人間の声というだけで既に美しいと感じる私ではあるのだが。しかし産屋敷様の御声は、まろやかとでも言うのだろうか、聞いているうちに微睡んでしまいそうな気さえするのである。村長からも失礼の無いようにと再三言われているので、まさかここで寝たりはしないが。
御内儀が襖に白魚の手を掛けられる。そのひとつひとつの所作でさえ洗練されて美しい。私は礼儀作法も大して弁えぬ田舎猿であるが、この方の御振る舞いが大層素晴らしいものだという事は想像に難くない。
藤の襖絵がするすると開かれていく。
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あさ(プロフ) - 光華さん» コメント自体は本当に有り難く嬉しいので、どうかお気を悪くされない事を祈ります。再度、コメントありがとうございます (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» 頻繁に改行をするものではなく、この書き方は私のポリシーとして出戻る前から確立されています。幼い頃から沢山の本を読み漁って確立された価値観ですので、申し訳ありませんが変える事は出来ません。占ツクでは万人受けしない事は承知の上ですが、ご理解お願いします。 (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。有り難い御意見ではあるのですが、途中で書きました通り指数が毎話ギリギリになってしまっていて、改行分の字数すら惜しいくらいになっています。それから、私の中での文章や小説というものは、(例によって字数が足りませんので続きます) (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 行間をもう少し空けたらどうでしょうか (2020年8月7日 6時) (レス) id: e4678e2dff (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - stereogirlさん» コメントありがとうございます!とても励みになります。割とこだわっている部分なので、そう言っていただけて嬉しいです。これからも頑張りますのでお付き合いお願いします。 (2020年7月15日 0時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あさ x他1人 | 作成日時:2020年5月28日 1時