検索窓
今日:2 hit、昨日:5 hit、合計:49,492 hit

八年前 ページ17

寛三郎さんは、私が初めて放った烏の内の一羽だった。

「いいか、(のぞみ)、A。烏というのは…、」

烏の蘊蓄が始まると中中止まらない父と、兄と私、三人で世話をした。私はまだ八歳だったけれど、病に侵されていた父の死期が近い事は幼いなりに解っていた。次の放烏はきっと自分達だけでする事になると思っていたから、必死で仕事を覚えた。

寛三郎さんは若い時から温厚で言う事をよく聞く烏だった。村で生まれた烏ではなく、外から志願してきた烏で、他の烏より大分お兄さんだったから、他の烏達からも慕われていたと思う。その年に放った他の烏はみんな十歳以下だったが、寛三郎さんは十四だった。

放烏の後、父の病状は緊張の糸が切れたように急速に悪化して、一個月後に旅立った。

それから暫くして、兄は鬼殺隊士になりたいと言うようになった。最初は、私がまだ幼い上に女だという事を気にして、それを隠していたようだった。烏匠は基本的に男がして、妻が手助けする、というのが通例だったから。けれど私は自分も立派な烏匠になりたかったし、私のために優しい兄の夢を諦めさせるような事をしたくなかった。

「臨兄ちゃん、Aは大丈夫よ。家の仕事はAが継ぐから、臨兄ちゃん、したい事していいよ。」

そう言ったとき、兄はぽろぽろと真珠のような涙を溢して私をきつく抱き締めた。その頃から兄はそれまで以上に私を溺愛し出して少し気持ち悪いくらいだった。

次の放烏までは、俺も一緒にやると言われた。大見得を切ってもやはり一人では心細かったから、本当に助かった。烏匠は二十歳くらいにやっと一人で放烏するようになるから、十歳の兄と八歳の私が烏匠を継ぐ事をみんな心配した。兄と私は、父から教わった知識や経験談を応用して必死で頑張った。そうすると周りの大人達は感心して、一人前だと言ってくれた。

それで、より一層頑張って、そして、今でも鮮明に憶えている__父の死から二年と十個月が経った頃、寛三郎さんは村に帰ってきた。

・→←・



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (45 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
63人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 冨岡義勇 , 鎹烏
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

あさ(プロフ) - 光華さん» コメント自体は本当に有り難く嬉しいので、どうかお気を悪くされない事を祈ります。再度、コメントありがとうございます (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» 頻繁に改行をするものではなく、この書き方は私のポリシーとして出戻る前から確立されています。幼い頃から沢山の本を読み漁って確立された価値観ですので、申し訳ありませんが変える事は出来ません。占ツクでは万人受けしない事は承知の上ですが、ご理解お願いします。 (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - 光華さん» コメントありがとうございます。有り難い御意見ではあるのですが、途中で書きました通り指数が毎話ギリギリになってしまっていて、改行分の字数すら惜しいくらいになっています。それから、私の中での文章や小説というものは、(例によって字数が足りませんので続きます) (2020年8月7日 7時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)
光華(プロフ) - 行間をもう少し空けたらどうでしょうか (2020年8月7日 6時) (レス) id: e4678e2dff (このIDを非表示/違反報告)
あさ(プロフ) - stereogirlさん» コメントありがとうございます!とても励みになります。割とこだわっている部分なので、そう言っていただけて嬉しいです。これからも頑張りますのでお付き合いお願いします。 (2020年7月15日 0時) (レス) id: 280f636c3f (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:あさ x他1人 | 作成日時:2020年5月28日 1時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。