故人のためのお花屋さん

プラネタリウム ページ40

川村side

川村今仕事終わったよ



日向お疲れ。夕飯作っちゃったんだけど、外で食べるっけ?



川村ううん、すぐ帰るよ



日向了解〜



画面上で光る、小さな文字。口約束でしかない脆いこの文章に、僕はひどく安心した。

今日も夕飯作ってもらっちゃって悪いな……好物のバニラアイス買って帰ろうかな。


僕は食品会社に勤める社員の「川村」で、今は会社から帰宅中。さっきやり取りしていたのは彼氏。


……いや、編集ミスじゃなくて。ちゃんと「彼氏」であってるんだ。


だって僕は、ゲイだから。

ゲイというのは、心は男性、体も男性だが、性的指向が同性の人のことを言う。


僕は中学生の頃から自覚していて、それから上京するまでの8年間ずっとコンプレックスだった。

誰かに打ち明けようとも思わなかった。8年前なんてLGBTQのことは世間一般にあまり広がっていなかったから。


大学生の頃に東京に来て、そのときに出会ったのが今の彼氏。僕は苗字で「日向」と呼んでいる。まるで太陽のような暖かい名前で、人柄も同じようにぽかぽかしていた。

初めて会った場所はプラネタリウム。

大学のとなり駅の前に大きなプラネタリウムがあって、彼はそこの職員兼解説者だった。



日向「皆様、こんばんは。私は星々を繋ぐ者。繋がりの星の解説者、日向 光です」



ただ彼には問題があって、ゆったりとした声でお客さんを星の世界へ連れていってくれるのだが、その柔らかで安心するような声で眠ってしまう人が続出してしまうのだ。


僕もその一人で、初めて彼の解説を聞いたときはいつの間にか眠っていた。

でも僕はもう一回しっかりと聞きたくて再度プラネタリウムに訪れることにした。

そして二回目に訪れた時、ようやく、彼の声を最後まで聞くことが出来た。



一発目の印象は、安心する、まるで大きなバリアに包まれて、現実の嫌なことから守ってくれている……そんな声だった。

太陽の衛星と化す→←星

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す