元居た場所に戻るだけ ページ10
高橋「あ？」
『もう何処にも行きません。ですのでどうか、どうかこれ以上はやめてください……彼に、彼らにはこれ以上手を出さないでください』
畳に額を擦り付けるくらいに深々と土下座をする。
高橋「そうだよなぁ。お前があの時検非違使を倒していたら、こんな風になることもなかったもんなぁ。ちゃんと責任を取らなくちゃいけないよなぁ？」
髪を掴まれ無理やり顔を上げられると、左頬にストレートパンチが入った。
『っぐ……』
当たりどころが悪かったようで、鼻血を出す。
頬がジンジンと痛む。けれどみんなが受けたものに比べれば、こんなものはどうってことない。
『ゔっ……あああああっ！』
さらに追い討ちをかけるように、火傷した手を靴でグリグリと踏みつけられる。
包帯の隙間から覗く手の甲が畳と擦れ、焼けるように痛い。包帯が少しずつ赤く染っていく。
高橋「コイツらにかけた呪術、解いて欲しいか？」
『……っ、はい』
激痛を堪え、小さく頷く。
高橋「なら、俺が今から言うことを復唱しろ。私は高橋様の所有物です。もう何処にも逃げません。一生高橋様の命令に従い生きていきます。ってな」
晴人「A止めろ！ そんなことをする必要は無い！」
高橋「お前はうるせぇんだよ！」
高橋の鎖が再び晴さんを襲う前に、息を吸い込んで吐き出すように復唱する。
『私は！ 高橋様の所有物です！ もう何処にも逃げません！ 一生高橋様の命令に従い生きていきます！』
そう言うと、刀剣たちにかけられた呪術は解かれ、跡形もなく消えた。
高橋「良い子だ。さ、帰るぞ」
胸ぐらを掴まれ、無理やり立たせられる。
晴人「A！」
『……今までありがとう。楽しかったよ。たくさん迷惑かけてごめんね』
晴さんの元へ歩み寄り微笑むと、彼は顔を歪めた。
素敵な夢だった。
晴人「A、ちょっと待て」
少しだけ強く腕を掴まれる。
それが嬉しかった。けれど、これ以上危険に晒すわけにはいかない。
優しく、けれど強く晴さんの手を腕から離す。
『私は、元居た場所に戻るだけだから』
そう。これで元の生活に戻れる。本来なら出会うはずがなかったあの頃に。
『さようなら』
本丸を出て、ゲートを潜る。
出会っちゃいけなかったんだ。そうすれば、こうやってお互いが傷付くことが無かったというのに。
この日、初めて運命を恨んだ。
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作者名：まじゅっちゃん | 作成日時：2021年7月1日 17時
