違う ページ33
『主、様……苦、し……』
高橋「この役立たずが」
ギリギリと締め上げられる。視界が時折白くなる。
主様はこんなことしない。私の知ってる主様は、優しくて、愛情表現が下手っぴで、それで、それで……
ふと、あることに気が付いた。
あれ？ この人、誰……？
この男は一体誰だ。私の主は別に居る。そもそも私はどうして今こんな目に遭っているのだ。
『……違、う』
男の首筋に本体を当て、思い切り引く。
首から血が吹き出し、男はどさりと崩れ落ちる。
『お前、主じゃない』
高橋「零壱……おま、え……」
『うるさい。主でもないくせに、私に指図しないで』
喉元に本体を突き刺し、何度も刺しては抜いてを繰り返す。
しばらくして、男はピクリとも動かなくなった。
確かこの男の名前は高橋だっただろうか。
『私の主は杏果ちゃんだけ。でも今はもう居ないから、私が仕える主は居ない』
そうだ。私に主は居ない。優しい主は居た。それはもう過去のことだけれど。
ようやくその事実を自覚すると、どっと大量の記憶が流れ込んで頭が痛い。
『う……うぅ……』
何だこの記憶は。様々なものが混ざって処理が追いつかない。
『何なのこの記憶！ 分かんないよ！ どれが正しいの！？』
頭の中がむしゃくしゃする。コイツら全員殺したら、この痛みは消えるかなぁ？
一番近くで横たわっている宗三左文字に近付こうとした時だった。
『ゴフッ』
体内から何かが込み上げ、それを吐き出すと足元に赤いものが広がっていく。
血だった。
何で……？ 私、内臓斬られてないよ……？
身体はまだ全然動くし、怪我だって少ない。致命傷になりそうなところなど何処も見当たらないというのに。
腕に視線を移すと指先が紫色になっていた。そのスピードは尋常では無く、脚にも広がっていた。
『何、これ……』
この紫色のものは何だ。身体も痛いし震えだって止まらない。
状況整理が追いつかず、呼吸が荒くなる。
『あ、れ……？』
息って、どうやって吸うんだっけ……
『ヒュッ』
もう一度息を吸おうとしたのを最後に、私は意識を失った。
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作者名：まじゅっちゃん | 作成日時：2021年7月1日 17時
