思い違い ページ3
本丸に帰還し、壁に手を這わせながらゆっくりと手入れ部屋へ向かう。
中傷以上になったのはこの本丸に来てから初めてだ。
どうしよう止まらない……ちょっと、ヤバいかも……
手入れ部屋は「空き」と書かれた札が掛けられており、どうやら空いているようだ。
障子を開けると薬研と鉢合わせた。
『あ、薬研丁度良かった。打ち粉残ってるかな？ ちょっと使わせてほしくて』
私の傷口をまじまじと見つめるとため息をひとつ着き、驚くべき言葉を発した。
薬研「それくらい打ち粉が無くても自分で治せるだろ。それから大将にも手入れを頼むなよ。大事な霊力を使わせるな」
そう冷たく言い放つと、颯爽と去っていってしまった。
先程の薬研は沖田組と同じ眼をしており、その眼差しに息が詰まった。
薬研まで……急に人が変わったように冷たく接するの？ 今まで普通に接してくれてたのに……
キュッと唇を噛み締め、手入れ部屋に入る。
邪魔。
その単語が、脳裏を過った。
私、そんなに鬱陶しかったかな？ 邪魔だったかな？
勝手に距離が縮まったと思っていた私が馬鹿だった。
そりゃあ、そうだよね。だって私、居候してるもん。赤の他人に、自分たちの主の大事な霊力使わせたくないもんね。
消毒液をコットンに染み込ませ、傷口に当てていく。
手入れには二つの方法がある。一つ目は、打ち粉などを使用した、人間がするような手入れ。二つ目は、本体に霊力を込めて治療する手入れ。一つ目は誰でも出来る手入れなので審神者の負担が無い代わりに治りが遅いのに比べて、二つ目は審神者の神経を削る為、瞬間治療が出来る分、負担がとても大きいのだ。
鼻の奥がツンとする。続いて視界が歪む。
泣くな。私には泣く資格なんてない。
『しょうがない……しょうがない……』
袖口で涙を拭い、テキパキと手入れをこなしていく。
自分の大切な主が、赤の他人を治療することによって神経を削って倒れでもしたら、少なからず恨むだろう。私も彼らと同じ立場だったら、鬱陶しいと思ってしまうかもしれない。邪魔だと思ってしまうかもしれない。冷静に考えてみれば当然のことだった。
だけど……
『辛いなぁ……』
咄嗟に上を見上げ、目を閉じた。
涙が零れ落ちてこないように。
他のみんなも、実はそう思ってたりするのかな……
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作者名：まじゅっちゃん | 作成日時：2021年7月1日 17時
