【六章】 ページ30
旦那様と入籍をしてから二年が経って、お名前を呼べるようになり、お出かけをすることも増えた。
二人で朝食を取っているときは普段と変わらない。お互いが使う箸と食器が当たる音と外から聞こえる自動車や鳥の声が聞こえる。
食事を終えると、清親様は自室でお着替えを終えて玄関で上着を着せるのは私の役目で、彼から上着を受け取る。
靴を履いた音が聞こえて、上がり框から上着を広げると袖に腕が通される。上着をお召しになったことが感覚に伝わると、ハルから帽子を受け取って清親様にお渡しする。
「なるべく早く帰る」
「はい」
清親様は自分の任務のことは話さないし、話すこともできないことをわかっているから私も聞かない。
「ハル」
いつもと同じように縁側に座って一日を過ごす。じんわりと重い空気と湿気に雨が降る気がした。彼女の名前を呼んでも返事がないのは夕食の買い出しに出ているから。服が風になびく音がして沓脱石の上にある下駄を履いて庭に出る。物干し竿に干された服を腕にかけながら縁側に運ぶ。
丁寧に私やハルが着る襦袢や寝間着、清親様のシャツをたたむ。彼が着る服は自室の前のカゴに入れる。
「サエ様、ただいま戻りました」
勝手口からハルの声がして、箪笥から手拭いを出して彼女に渡すと、ありがとうございます。と手のひらから手拭いの感触がなくなる。
「かなり降ってきたみたいね」
「ちょうど買い物を終えた頃に降り始めまして。お洗濯もの、取り込んでいただきありがとうございます」
「いいのよ。清親様は傘を持っていかれたかしら」
「サエ様、旦那様をお名前で呼ばれるようになったんですね」
ふふふ。とハルが笑う声がして思わず恥ずかしくて軽く肩を叩いた。
その時ガラガラと玄関の引き戸が開く音がして、壁伝いに玄関のほうに行く。
「旦那様？」
「あぁ、今戻った」
「おかえりなさいませ。本日はお早いのですね」
「早く帰ると言っただろう」
おかえりなさいませ。と奥から来たハルから手拭いを受け取って清親様に渡そうとしたとき。
「みゃあ」
「ねこ、ですか？」
私がそう聞けば、清親様が私の右手を取って手のひらを下に向けると、ビロードのように柔らかな手触り。
「ずいぶん小さな子ですね」
「縁側の下にいた」
そうなんですね。とハルに追加で手拭いを持ってきてもらうように頼んだ。私が持っていたてぬぐいには子猫が包まれ、腕に抱える。清親様の上着を受け取ることができないけれど、腕の中で子猫がもぞもぞと動いている。
続く (更新停止中)
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曽根崎(プロフ) - ｲﾃﾞさん» コメントありがとうございます！なかなか書くのが難しい津山ですが、楽しんで読んでいただけて嬉しいです☺️ゆっくりではありますが、更新を気長にお待ちいただけたらと思います。 (11月11日 14時) (
レス) id: 8bc1808701 (このIDを非表示/違反報告)
ｲﾃﾞ(プロフ) - 映画の一面だけでなく原作も交えてくださっている素敵なお話を書いてくださりありがとうございます！この作品の更新通知が来るのがとても楽しみです！今後どうなっていくのかな⁇とわくわくしながら更新待ってます。無理なく更新続けていただけると幸いです。 (11月10日 0時) (レス) id: 302d90b890 (このIDを非表示/違反報告)
曽根崎(プロフ) - みるく?さん» コメントありがとうございます！津山って原作だと色々バックボーンが分かるんですけど、映画だと冷たい人に見えますよね。きっとこんな彼もいたんじゃないかなって思って書いてます。これからもよろしくお願いします！ (11月4日 12時) (レス) id: 8bc1808701 (このIDを非表示/違反報告)
みるく?(プロフ) - 映画を見て津山夢探していましたが、素敵な夢をありがとうございます！映画では冷酷に書かれていた津山の優しさにきゅんとしました。更新を楽しみにお待ちしております。 (11月4日 7時) (レス) @page16 id: d41930f707 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：曽根崎 | 作成日時：2023年10月31日 19時
