𓍯𓈒𓏸︎︎︎︎ ページ3
穀潰し。邪魔者。めくら
お前なんて役に立たない
この言葉は私の名前みたいなものだった。
齢四つの頃に高熱を発症してから五日後に何も見えなくなった。気付いたら暗闇の中にひとりで、部屋から出ることも出来なかった。
「お国の役に立てないなんて、生きていても邪魔よ」
「大事な娘です」
「他にもいるじゃない。女はお国のために丈夫な子供を産まないといけないのよ。目が見えないなんて、鷹山家の面汚しよ」
叔母と母の声が障子越しにはっきり聞こえた時、私は居てはいけないのだと幼ないながらに思った。
「はじめまして、サエ様。今日からお世話をいたします、ハルと申します」
部屋に引こもる私を心配して母が寄越した世話係がハルだった。話を聞けば、ハルには足の不自由な母がいて、その世話を一心に引き受けていたと言う。
ハルは私に大小二種類のガラスの玉を結び目を境にして、上と下に分けて並べて文字を現す通信玉を教えてくれた。本を読めない私に代わって読み聞かせも、字を書く練習はいたしましょう。と私の手を取って字を書くことを教えてくれた。
献身的なハルの支えもあり、齢が九つになる頃には私は普通の子供と同じような生活ができるようになっていた。
「ハルさんは、どうして私の世話を引き受けたの？」
「それは、サエ様が素敵なお嬢様だからですよ。私が今まで会ってきたお嬢様方の中で、一等お優しくて、賢く、幸せになれると信じているからです」
私が十になる日にハルに問うと、ハルは私の両手をそっと握って答えた。私は幸せになれるの？なれますとも、サエ様はご自身で幸せを見つけられる方ですもの。ハルの柔らかい声と言葉に少しだけ自信を持てた。
しかし現実はそう甘くない。鷹山家は貿易で財を成し、お姉様も私の一つ下の妹も早々に名のある家へ嫁いで行った。もちろん私にも縁談の話は来るけれど、会ってみて目が見えないと言うので破談になる。
十八になるまでに六回の縁談が来たが、全てなかったことにと言われ、父は私に見向きもしなくなった。
「これが、最後の縁談だと思いなさい。決まらなければ出家してもらう」
「わかりました」
父にそう告げられ、言葉の意味が両肩に重くのしかかる。私は役立たずなのだから、もう出家した方が家族のためだと思う。
「サエ様、諦めてはいけませんよ」
「分かってるわ……」
ハルに子供の頃みたいに両手をそっと握られてまた勇気づけて貰った。
こうして迎えた最後の縁談で、出会ったのが津山様だった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 194人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
曽根崎(プロフ) - ｲﾃﾞさん» コメントありがとうございます！なかなか書くのが難しい津山ですが、楽しんで読んでいただけて嬉しいです☺️ゆっくりではありますが、更新を気長にお待ちいただけたらと思います。 (11月11日 14時) (
レス) id: 8bc1808701 (このIDを非表示/違反報告)
ｲﾃﾞ(プロフ) - 映画の一面だけでなく原作も交えてくださっている素敵なお話を書いてくださりありがとうございます！この作品の更新通知が来るのがとても楽しみです！今後どうなっていくのかな⁇とわくわくしながら更新待ってます。無理なく更新続けていただけると幸いです。 (11月10日 0時) (レス) id: 302d90b890 (このIDを非表示/違反報告)
曽根崎(プロフ) - みるく?さん» コメントありがとうございます！津山って原作だと色々バックボーンが分かるんですけど、映画だと冷たい人に見えますよね。きっとこんな彼もいたんじゃないかなって思って書いてます。これからもよろしくお願いします！ (11月4日 12時) (レス) id: 8bc1808701 (このIDを非表示/違反報告)
みるく?(プロフ) - 映画を見て津山夢探していましたが、素敵な夢をありがとうございます！映画では冷酷に書かれていた津山の優しさにきゅんとしました。更新を楽しみにお待ちしております。 (11月4日 7時) (レス) @page16 id: d41930f707 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：曽根崎 | 作成日時：2023年10月31日 19時
