【一章】 ページ1
お前は純粋な日本人では無い
我が国において使えるものなら使うまでだ
母が独逸の生まれであるがために、俺は祖父母からも親戚一同からも疎まれてきた。ただひたすら一族のひとりとして認めて欲しいがために、陸軍に入隊した。両親が死んだ時も、一心不乱に敵兵を屠った。
軍で成果をあげられるようになり、次に舞い込んできたのは見合い話だった。結婚なんて邪魔になるだけだが、異国の血が入っているお前にせっかくの見合いだと祖父から言われてしまえば、俺は逆らえない。
祖父と共に待つ料亭の一室に来たのは藤色の色無地の着物を着た年増の女と、その女に手を引かれて歩く女。歳は十九になったばかりと聞いているが、歳より落ち着いた雰囲気がある。漆のように黒く艶のある髪と反対に、纏う翡翠色の振袖で蝶が舞っている。
「お嬢様、こちらに」
付き人に促されて俺の向かいに座った時、その違和感に気付いた。
目線が合わない。軍人である俺を恐れているのかと思ったが、どうも違うらしい。柔く口角を上げたまま、机の上を見ているようだ。
「津山ヨーゼフ清親と申します。」
あとは若い衆だけで、と祖父と相手の仲人と付き人は席を外した。それから五分ほど経ったのだろうか、俺が口を開いて名乗る。
「鷹山サエと申します。……私は、目が見えません。」
嗚呼、だからかと納得が言った。目の前の女は俺の姿が見えていないのだ。
「めくら、なのか」
「左様でございます」
「全く見えないのか」
「見えません。ですが、耳と鼻が利きますので、大体の位置は分かります」
はっきり目が見えないと告げた時偶然俺と目が合ったように見えたのは、少し首を傾げたり、左右に瞳が動くのは俺の声や気配からどこに座っているのか探っているからか。
俺がめくらと言っても女は表情ひとつ変えず、真っ直ぐに背を伸ばして俺の方を向いている。
「いつから、見えなくなった」
「私が四つの頃に高熱を出してから、それっきり見えなくなりました」
「今までどうやって生活していた」
「私の手を引いていたのが、私の世話をしてくれているハルです。ハルのおかげでここまで生きてこれました」
縁談が決まらない理由がこれか。目が見えなければ国の為に働けるわけが無い。要は穀潰しになっているこの女から産まれる子供も目が見えないと考えられているのだろう。
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曽根崎(プロフ) - ｲﾃﾞさん» コメントありがとうございます！なかなか書くのが難しい津山ですが、楽しんで読んでいただけて嬉しいです☺️ゆっくりではありますが、更新を気長にお待ちいただけたらと思います。 (11月11日 14時) (
レス) id: 8bc1808701 (このIDを非表示/違反報告)
ｲﾃﾞ(プロフ) - 映画の一面だけでなく原作も交えてくださっている素敵なお話を書いてくださりありがとうございます！この作品の更新通知が来るのがとても楽しみです！今後どうなっていくのかな⁇とわくわくしながら更新待ってます。無理なく更新続けていただけると幸いです。 (11月10日 0時) (レス) id: 302d90b890 (このIDを非表示/違反報告)
曽根崎(プロフ) - みるく?さん» コメントありがとうございます！津山って原作だと色々バックボーンが分かるんですけど、映画だと冷たい人に見えますよね。きっとこんな彼もいたんじゃないかなって思って書いてます。これからもよろしくお願いします！ (11月4日 12時) (レス) id: 8bc1808701 (このIDを非表示/違反報告)
みるく?(プロフ) - 映画を見て津山夢探していましたが、素敵な夢をありがとうございます！映画では冷酷に書かれていた津山の優しさにきゅんとしました。更新を楽しみにお待ちしております。 (11月4日 7時) (レス) @page16 id: d41930f707 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：曽根崎 | 作成日時：2023年10月31日 19時
