リルティングアワー8【BE:FIRST】

怪物、もう1匹の方 ページ38

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動画を撮りたいのはどちらかというと俺の方だな。
と真人は思う。

中華麺を湯掻いている間にチラリとダイニングを見ると、未だにコムギはAの膝の上にいて 飽きることなく構ってもらっていた。




「引っ掻いたりせんの？」

「痛いことはしんけど、遊んでると引っ掻き傷できてまう」

「まじ？」

「うん、ほら」




白い腕に赤茶色の一本線が見える。
あらあら体が資本だと言うのに。




「メイクさんに怒られた」

「やっぱり……」

「……爪切りはこまめにしてます」




コムギの両前足を持って、バンザイさせるように持ち上げる。まんまるなお腹が目に入ったのと、ばつ悪そうに口を窄めるAが面白い。




こちらの様子を伺いつつ時折話しかけてくるAを相手にしながら、手際よく作り進めていた真人は冷蔵庫から魚の切り身を2パック出してきた。

包装に爪を立てて破くと匂いが充満したらしい。コムギが首を伸ばしてAの膝の上からこちらを覗いている。
しかし、真人を驚かせたのは別の一手だった。




「うおっ、」

「あ、コラ もち！」




カウンターに突然現れた白い塊。
声を上げた真人と目が合うと それは一瞬身を引いたが、それよりも匂いの誘惑に勝てないのか 彼の手の中にあるものに前足を伸ばそうとしている。




「だーめ、こっちおいで」




ふとAの声が近くなって、おもちから視線を上げれば目の前で毛玉をお腹から掬い上げる手。




「……真っ白だなぁ」

「そやねん 綺麗よな。もち？マナちゃんは平気なん？」




抱えたおもちの顔に自分の鼻を近づけて優しく語りかけるA。思わず“猫になりてぇ”と思いつつ「俺？」と首を傾げると、クスクス笑い始めた。




「舜斗が来ると出てこないの」

「まじ？」

「いっつもビビってる。それも可愛いけど舜斗は寂しそう」

「ははっ。」




Aの愛猫に塩対応される舜斗の絵面を想像して少し笑えてしまい、それと同時に多少の優越感を感じてしまった。こんなことでマウントを取るようになったら、いよいよおしまいだなぁと思う。




「んな〜」

「後でおやつあげるから待って」

「ン〜」

「んーっ」


「(やべー)」




おもちの真似をしてAの口から出る声に、真人の耳がピクリと動く。別に猫にはそこまで興味ないからと、無理やり時間作って会いに来ることは無かったが、こんな甘々な一面が見れるならもっと早く……




「(アイツらそれ分かってて…)」




最近やたらとAの家に行きたがる事務所の奴らが脳裏に浮かぶ。
明らかに滲む魂胆が見えて、真人は手元に視線を下げて苦笑を漏らした。



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