遠ざけられた地獄�� ページ23
.
『わざわざ、最後にこんなことをするなんて、本当に意地悪ですね…』
鼻の奥がツン、とする。それでも涙は零れない。
喉奥の焼けるような痛みは、どんなに強いお酒でも和らげることは無理だろう。
『…結婚、されていたんですね』
「うん、普段仕事のときは外してる」
『あーもう、騙された気分だし、聞けなかった自分が本当に情けない…』
「Aちゃん、それは違うよ。あーいや、騙したってのは否定出来ないけど」
『知らないまま終わらせてくれるのも優しさですよ』
私が力なく笑うと、宇髄さんは更に表情を顰めた。
「それが俺の至らない所」
『え…？』
「Aちゃん、俺はそんなに完璧じゃねーのよ」
宇髄さんは静かに息を吐いて、近くの店員に目配せをした。おかわりのワインを二つ、と告げて、目の前のグラスを空にした。
「Aちゃんが“最後”って言ってくれなけりゃ、出張の度に会おうって言ってたよ。俺はそういう男」
『だからってこんなの…』
「君を振る資格もない、どうしようもない男でごめんね」
『最悪ですね、こんな終わり方…』
「若くて可愛い君に良い思いさせて貰えて、俺は最高だったけどな〜」
乾いた笑いが頭まで響いた。酔っているのか、頭に血が昇って、言葉も出なかった。何が悲しいって、私の諦めにも似た“最後”という何気ない言葉がこうさせてしまったこと。苦虫を噛んだような表情のままの宇髄さんが、私に後悔をさせまいとしてくれていること。なにもかもが、上手くいかなくて、苦しくて、悲しかった。
『宇髄さん、いつかこの手を握り返さなかったことを後悔してください』
「……うん、きっと後悔する」
綺麗な恋愛じゃなくても良いから、今すぐ考え直して、やっぱりAちゃんはいい女だよって抱き寄せて欲しかった。そうすれば、涙を流して、どんな地獄でも歩いていけたのに。
それすらもさせてくれないなんて、酷すぎる。
私は、彼に後悔をして欲しい訳じゃない。どんな茨の道であっても、彼と手を繋いで、抱きしめ合いたかっただけ。
本当にそれだけで良かったのだ。
それでも、私に振り返ることすら許してくれない大好きな男は、最後まで手が届かなくて、狡い男だった。
end.
終わり
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羽糸(プロフ) - ひよさん» 狡い男通り越して酷い男になりました(笑)泥沼化ルートもアリだったのかもですが、ここで関係を終える方がお話的には苦しいのかな…とか色々考えたり🤔こちらこそ、読んでくれてありがとうございます❤️ (2022年9月9日 19時) (
レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - 京華さん» 毎度読んでくれてありがとうございます😌あなたも十分語彙力あるでしょうに…京華さんのお話また読みたいなァ…❤️ (2022年9月9日 19時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
ひよ(プロフ) - 宇髄さんひでェ、とはチラッと聞いてたけど、ほんと酷い…！（褒めてます）共に在るという地獄にすら、落としてもらえなかったんですね。とことんまで墜ちた方が、どこかで振り切れたかもしれないのに。更新ありがとうございました♥ またお待ちしてます！ (2022年9月9日 10時) (レス) @page23 id: a2712468ed (このIDを非表示/違反報告)
京華(プロフ) - おかわり嬉しかったのですが、これもグゥなりました…私に今すぐその語彙力を下さい…グゥ唸らせる語彙力が欲しい!!!お話は書けないけど会話で語彙力増やすために勉強させて頂けて毎度ありがとうございます💖更新嬉しかったです💖 (2022年9月8日 21時) (レス) @page23 id: 9cf14e7eab (このIDを非表示/違反報告)
羽糸(プロフ) - ひよさん» こちらこそ読んでくれてありがとうございます！！通知うまく反映せずスミマセン。リクエストのやつ…のつもりでした(笑)元々書きたかったネタがあまりにも進まなかったので急遽修正してます！たまにふらっと書きますので宜しくどうぞ❤️ (2022年7月24日 14時) (レス) id: 85bd249cc8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：羽糸 | 作成日時：2021年5月14日 20時
