lilac (ページ27)

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持っているカップの水滴が、俺とAのソファーの間に落ちる。ここは静かで、空調の音だけが聞こえて、急に黙ってしまったAの横顔がどうしてか寂しそうだったから、肩に触れる。

『A？』

「…あ、はい」

『うん？』

「いや、さっきまでずっとリラだったから」

『…まさか自分の名前忘れてたの？』

笑って誤魔化そうとしてるけど、そのままぎゅっと口を閉じて、少し俯けば髪の毛で顔が見えなくなってしまう。今度こそ手を伸ばして、それでもまだ距離感が掴めないまま、指を握った。

「A」

『何ですか？』

「いっぱいになっちゃう前に、俺と話そう」

手を差し伸べることが、正解なのかなんて誰にも分からない。この子より歳は上でも、この世界を俺よりもずっと知っている。だからこそ、溝を作らせる前に手を繋いだ。ずるいかな。それだけ大切なのだと伝えたら、どんな顔をするのかな。

『いつか一緒に活動する時、皆をびっくりさせようよ』

「みんな？」

『Aと俺はすっごく仲が良くて、俺はAの頼れるお兄さんなの』

「…お兄さん」

『この前言わなかったけど、Aの中国語はどこに行っても通じるよ』

「ほんと？」

『あの時、俺は嬉しかったから』

だからもっと自信を持って、俺のことも頼ってよ。

ぎゅっと縮こまっていた背中が、少しだけ伸びた気がする。先のことなんて何も知らないし、想像で言ったことが本当のことになるなんて、いつかがもうすぐそこまで迫っていることなんて、俺は何も知らなかったけど、それを知っていたAが、さっきよりもずっと澄んだ顔をして笑っていたから、俺も笑う。気付けば、ここに来てから時間が経っていた。

『そろそろ帰らないと、明日は早いの？』

「明日…と明後日は色々あって」

『色々？』

「ジェヒョニオッパに、これから毎日会えるようになるって伝えてもらえますか？」

『どういうこと？』

「また今度、たくさんお話しましょうね」

お腹空きましたと立ち上がって、散らばっていたものがまとめられて、気付いた時には綺麗に片付いていた。帰りましょうと隣に並んで、すぐにチソンを見つけた。Aの愛おしい誰かになれるだろうか。それって誰がなれるんだろう。