lilac (ページ3)

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「今から来れる？」

アラームと勘違いしていたまま、画面をタップする。あ、もしもし？と声が聞こえたあと、返事をする間もなくそう言われて、誰ですかと声に出していた。

「僕だよ、元気だった？」

『……先生？』

「うん、体調はどう？」

『最近は何もしてないから、学校に行ってますけど』

「そっか、そろそろどうかな」

『そろそろ？』

「そろそろ、戻ってくる気はない？」

飛行機の音が聞こえる。そういえば今は何時なんだろう。体を起こして窓の外を見れば青い空が広がっていて、横を見れば新しい制服がハンガーに掛けられている。大きな鏡に、寝癖が付いたままの自分が映っている。

『うん、もう良いよ』

「良いって？」

『わたし、この1年楽しかったから、今更戻っても何も出来ない』

「デビュー出来るとしても？」

『…誰が？』

「どうしてもデビューさせたいんだ」

画面が暗くなる。今度こそアラームが鳴って、我に帰ってそれを止める。もう一度ベッドに潜っても、さっき言われた言葉が忘れられない。会社があの文章を出してから、ちょうど昨日で1年だった。

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