アイスクリームサンデー3つ ページ11
○DOYOUNG
「ジェノを怒らせたかもしれなくて」
かかってきた電話の相手を2度見して、びっくりしながら耳にあてたら、遠くの方から声が二重に聞こえる。あれ、会社にいたんですねと手を振っているところまで走って、今時間ありますかというのに頷いた。小さな会議室のドアを閉めて、どうぞと渡されたアメリカーノを一口飲んで、Aが口を開いてそう言った。
『…うん？』
「ジェノ、最近機嫌良くなかった時ありました？」
『いや、それより色々聞きたいことあるんだけど』
「何ですか？」
『いつ戻って来たの？最近？』
「ああ、最近…1ヶ月前くらい？」
『ジェノには会ったの？』
「ううん、まだ」
ケーキもあるけど食べます？と言って、苺が乗ったケーキを2つ並べて、綺麗にコーティングされた苺をお皿の端に置いた。
『会社にいるだろうから、これから会いに行こうか？』
「ううん、大丈夫」
『…というか、ずっと気になってたんだけど』
「うん？」
『いつ泣いたの？』
「…ん？」
『目、擦ったでしょ』
この会社に入ったとき、いちばん初めに会ったのはAだった。こんにちはと目を合わせてくれて、この子がまだ練習生なら、俺はいつデビュー出来るんだろう。そう考えるほどに綺麗だった。あのチソンがいちばん懐いていて、小さな弟たちが守って来た女の子だ。
「難しい話を聞いて、頭がパンクしただけです」
『どんな話か聞いちゃダメ？』
「うん、ダメなやつ」
『泣いちゃうくらい嫌だった？』
「嫌じゃな…うん、嫌じゃなかったです」
『嫌じゃないのに泣いたの？』
「嬉しいことと理解できないことが一気に起こったら、お兄さんはどっちが勝つと思います？」
『どうだろう、Aはどっちだった？』
「最初は嬉しくて、後から泣きました」
少し赤い目から溢れた涙が、机に落ちる。それをまたぎゅっとするから手を掴んで、指を握る。丸い目に自分が映っていた。
『Aが泣きたい時に泣いて、笑いたい時に笑って、そうやって俺は過ごしてほしい』
「お父さんみたいなこと言いますね」
『過ごして欲しいけど、でも俺は、アイドルのAが好きだよ』
「…わたしも」
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作者名：yom | 作成日時：2022年12月5日 18時
