饗宴 2 (ページ42)

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怒涛ページ42

芙希は売れっ子若手ピアニストとして充実した生活を送っていた。

2枚目のCDも出した。

今度はとても暖かな、やさしいキスをちりばめたようなコンソレーションだった。

衝撃的だった『絶対零度』とは全く違う芙希の一面が良く出ており、これもなかなかの評判だった。

届いたCDを聴きながら、内田は以前ケガした時に芙希が送ってくれた、様々な曲を思い出していた。

何といってもあの映画のイメージが強くて、芙希のピアニストとしての評価は海外のほうが確かだったかもしれない。

それでも日本の若い音楽家としては、恵まれた状況だった。

大小のコンサートで、日本でのスケジュールは5月まで詰まっていた。

芙希自身のコネクションはかなり広がっていた。

内田はふくらみ続けた希望がいよいよ花開くのを感じていた。

芙希はもう大丈夫だ。

その実力を十分に認められている。

もう何があっても水野芙希の名に傷がつくことはないだろう。

リーグ戦を終えた内田は、6月に一週間の予定で急きょ帰国した。

すぐに芙希を呼びだしてドライブに誘った。

しっとりした小雨が降っていた。

海の見えるホテルのラウンジで内田は芙希と向かい合った。

「水野芙希さん。僕と結婚してくれますか？」

芙希は聞き間違いではなかろうかと思った。

いきなり内田は何を言っているのだ？

内田が自分に結婚という形を望むとは思っていなかった。

自分は専業主婦にはなれないし、それに、・・・

と考えて、そんなことはもうわかっていて、その上で内田は口を開いたのだと気が付いた。

自分はきっとすごく間抜けな顔をしているに違いないと思い、芙希は急に恥ずかしくなってうつむいた。

いつかと同じだった。

だんだん染まっていく芙希の頬がゆっくり持ち上がり、これ以上真剣になれない内田の目が芙希の瞳を覗きこんだ。

「はい」

内田は深い吐息をもらし、目を閉じた。

「『野ばら』を思い出して・・・」

「うん。これからは俺たち二人の家が『野ばら』になるんだよ」

二人の、家。

内田の上がりは早かった。

用意していた婚姻届を一番近くの役所にさっと提出してしまった。

保証人のところには、吉田と先輩の名前が書かれてあった。

ウィンターブレイクに訪問して挨拶しておいた、お互いの実家に結婚を報告し、一週間の終わりには芙希を連れてドイツに戻った。

怒涛のゴールだった。

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