【wrwrd】ファットブルームの憂鬱【短編集】 (ページ8)

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炎夏、貴方とさようなら/sho ページ8

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「あのな、さっきな、ゾムに会ってん」

ーそう、良かったじゃない

「でな、マクド行こって誘われてんけど、嫌な予感して逃げてきてん」

ーだからそんなに汗だくなんだ

そう言い、彼女は頭上でギラギラと輝く太陽より明るく笑う。酷く青い空には真白な入道雲が浮かんでいる。だが、彼女と居るだけでそんな夏の暑ささえ忘れられる。

ーそう言えば

はい、と言いブタの縫いぐるみの付いたバッヂを差し出す。

「あれ……これ、どこで失くしたんやろって思ってたやつやん。どこで見つけたん？」

ーあの時だよ

頭が突然痛くなる。蝉の声が五月蠅い。目眩がし、景色が歪む。

「あの……時……？」

思わずしゃがみ込んだ。高熱を放つアスファルトに大量の汗が落ち、気化する。

ーうん、あの時は本当に嬉しかった。ありがとう

「な、何の事や」

電車の急ブレーキ音。

笑う彼女。

鳴り響く警報器。

突如頭に流れ込んで来る記憶に耐えられず目を強く閉じ耳を塞ぐ。夏の匂いが鼻腔を擽り、グロテスクな程に鮮明な記憶を呼び起こす。

俺は必死に手を伸ばすが届かない。
彼女は嬉しそうに、だけど悲しそうに其処に立ったままだ。その口は小さく"さようなら"と動いたように見えた。
電車が迫る。瞬間、何も聞こえなくなる。

気付けば、熱いアスファルトの上で呆然と座り込み、大粒の涙を流していた。

陽炎が揺れた。もう其処に彼女は居ない。