【wrwrd】ファットブルームの憂鬱【短編集】 (ページ44)

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黒薔薇/gr ページ44

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其の黒い薔薇は気高く、一輪だった。

私は其れを優しく摘み、じっと見つめる。
透き通るような葉脈には透明な血が通い、漆黒の花弁には、今も尚降っている霧雨の寄り集まった雫がまるで髪飾りの様に輝いていた。

突然、花はぐにゃりと倒れる。
驚いた私の手の中で、バチバチと白い閃光を放ち形を変える。
思わず落とした花はそのまま閃光を放ち続け、気付けば、一人の男に成っていた。

男は今迄持っていた薔薇の様に真黒の服を着て、唯一、霧状の雨水を纏っている髪は金色である。

「なぜ……そんなに俺を見つめる？」

静かに響く低音の声は鼓膜に気持ち良く、驚きつつも思わず聴き入る私の顔を、男は不思議そうな顔をして見ている。

『ただ、美しかったから』

二人の間に暫しの間が流れる。音の無い雨は更に二人を濡らす。

「そうか。今までこんな事をする変人は見た事無かったもので、理由を聞きたくなってしまった」

『変人……』

「おっと、傷付けてしまったのなら謝ろう。では花に戻ろうか」

『待って！戻らないで！』

彼が何者かも、何が起こったのかも理解出来ぬまま、反射で男を呼び止めた。

『私の家に……来ますか？』

何故こんな突拍子も無い事を言ったのか。男は微笑み「では」と小さく呟いた。

霧雨の降る、ある場所で見つけた一輪の花。そこで出逢った男は現実のものか。はたまた彼女の幻想か。