【wrwrd】ファットブルームの憂鬱【短編集】 (ページ42)

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アンティーク・ドール/tn ページ42

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古ぼけたアンティークショップ。私は其の乱雑の中、少し汚れたガラスの向こうに一つの人形を見つけた。

カラン、コロン

小さな扉には少々不釣り合いな大きなドアベルが私の入店を知らせる。然し誰も出て来ないようだ。私は構わず人形へと一直線に向かう。

私の目線と同じ程の高さに其れは居た。

透き通った紅の目をした其れは本物の様な細い黒髪に緑の軍帽を被り、見るからに柔らかそうなシルクの白い皮膚をして、軍帽とワンセットであろう軍服を着ていた。何時か教科書で見た、昔のロシアの軍服だろう。全体的にとても丁寧な作りをしていた。

ー買ってくれへんか？

そう、小さく聞こえた気がした。その声は人形からの様に思えて、私は驚きつつも其の人形を買うことに決めた。

カウンターで茶色のカーテンの向こうに『すみませーん』と呼び掛ける。すると、奥から優しい顔をした男の人が静かに出て来た。男の人は色素が薄く、髪や瞳が透き通っていた。

「あら、それ買うていきはるんか」

何故か少し驚いた様子で男の人はレジを打つ。

「2000円ね」

思ったより安く、私は『こんなに安くて良いんですか？』と問う。

「ええよ、でもちゃんと大切にするんやで」

『もちろんです！』

ほくほくと幸せな気持ちで俺と彼女は店を出た。今回の持ち主は俺の事を大切にしてくれるやろか。