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そんな日々が一ヶ月、半年、一年過ぎた。
私は病気が悪化し、寝込む日が続くようになった。
然し男が来ない日は無かった。
『ねえ、なぜ毎日来てくれるの？私はもう……だめなのに』
真白なシーツと揺れるカーテンに反射した窓からの光が男の顔を照らす。其の顔は何処か憂いを帯び、切なげで。然し何らかの意志の篭った優しい双眸を湛えていた。
「最期まで居るで……居るけど……」
言葉が詰まる。何かあるのだろうか。
「嫌やなぁ…………俺はA、好きやのに……」
「……俺な……死神やねん……」
突然の告白に固まる。死神とはどう言う事だろうか。
男は俯き肩を震わす。零れ落ちた小さな雫は綺麗なシーツに染みを作る。
「本当ならAはずっと前に死んどったはずやねんけど俺が無理やり引き延ばして引き延ばして、何とか一緒に居ったんや」
『そう……』
「でも、どんどん弱っていくA見てると申し訳なくて……だけど生きとっても欲しいねんな」
『…………もう良いよ』
私は体中の痛みを堪え、男に笑みを向ける。
『もう、良いから……ほら、私は大丈夫』
笑顔、出来ているだろうか。涙で顔ぐしゃぐしゃだろうな。
『今までありがとうね、本当に楽しかった』
「……うぅ…………」
まだ決めかねている男に微笑み、腕にアクセサリーの様に大量についた留置針を引きちぎる。腕、こんなに軽かったんだ。
「これならどこまでも飛んでいけそうだね」
何処かの陳腐なドラマで聞いたセリフを放つと男に手を伸ばした。初めて触れた彼の肌は氷のようで、指先から残り少ない命が体温と共に吸い取られていく感じがした。
「ごめんなあ……ありがとう……」
ぼろぼろと大粒の涙を流し乍、男は
私を優しく抱き締めた。
目を見開き驚く私と、目を閉じ最後の瞬間まで余さずにいる男。対象的だが思う事は同じ。
「じゃあ……」
男は私の胸に手を翳す。
男が其の手を強く握り締めると、意識が段々と遠退いていくのが分かった。
最期の瞬間に見たのは男の優しく微笑む顔。
今日も杜若は一人で揺れる。
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作者名：俐狐 | 作成日時：2021年5月30日 12時
