【wrwrd】ファットブルームの憂鬱【短編集】 (ページ17)

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廃れた世界で/syp ページ17

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ザー……ザー……

部屋の隅に置いた古いラジオから音がした。

まだ…………る……い……んか……。
生……者…………北…………て……さい……。

機械製の声が途切れ途切れ聞こえたあとプチッ、とラジオは突然切れた。
結局聞き取れなかった。また鳴るだろうか。

木材に釘を打ち付けて作った簡素な壁掛けに手を伸ばし昔から愛用しているヴィンテージヘルメットとゴーグルを掴む。欠けた皿の上に置いたキーとショートピースも忘れずに、其れ等をポケットに突っ込んだ。

壊れた玄関扉代わりの大きな布幕を押し上げる。
強い光に目が眩んだが次第に慣れる。
眼前に広がる其処は誰も居ない世界。

土埃を被ったトラックに看板、蔦に覆われた電柱やビル、アスファルトは所々割れ、其処から新しい生命が芽吹いている。

こうなったのは突然だった。
ある朝起きたら自分以外の人間が消えていた。だが、さっきのラジオは如何言うことだろうか。生存者が居るのだろうか。

ヘルメットを被りゴーグルを装着する。愛車のバイクにキーを差し込み発進。

緑と灰の同じような景色が過ぎ去って行く。ゴーグルが無いと目が土煙にやられてしまう。交通ルールもクソもないので一度も止まる事は無い。

何処へ向かっているのか？分からない。只、誰かに会える事を願い毎日バイクを走らせる。

偶に建物に入り食料や燃料を奪……戴く。今まで物資面で困った事は無い。都会に住んでいたことに
感謝だ。

ふと遠くで何かが動いているのが見えた。動物か？もしかして…………人か？

はっとした。あのラジオはもしかして此処に人が居る事を知らせる為だったのか？

逸る心を抑え、一縷の希望を抱きスピードを上げた。

其処には揺れる案山子とぼろぼろのラジオ送信機。

「……はぁ」

ここ最近で一番落ち込んだかも知れない。

ガサッ

「ん？」

『あ』

「あっ」

水色の髪と瓶底の様な眼鏡をかけた男と目が合った。