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まるで朝食とは思えないような食べっぷりで篤人くんは目の前の皿を空にしていく。
大きなお茶碗によそわれたご飯は2杯目。
その細い身体のどこにこれだけのエネルギーは使われていくのだろうと目を丸くした。
それでも一粒の米も残さずに綺麗に平らげてくれる篤人くんは作る側にとってはとても嬉しい存在だ。
ようやく満足し一息ついた篤人くんに私は一旦家に帰ることを伝えた。
「あ、そのことなんだけど、その、……いや……」
篤人くんは困惑していた。いくら同世代に比べると大人びているとはいえ、まだ23歳の篤人くんに修羅場を味わわせるつもりなど毛頭ない。
昨日帰らなかったのは、私の意志だ。
篤人くんが言い出したことかもしれないけれども、私にはそれを拒否することだってできた。
でも、それをせず一緒にいることを選んだのは私なのだから。
だから、誰かに責められるとすればそれは私。私だけなのだから。
なんて、強がったことを言っているけれども。
「篤人くんと一緒にいたいと、一緒にいると決めたのは私なの。
だから、今日明日も篤人くんと一緒にいさせて?」
お願いだから、もう少しだけ一緒にいさせて。
「ね、スニーカー持ってる?
一緒にボール蹴ろうよ。俺、今日無性にボール蹴りたいんだ」
篤人くんが好きなサッカーを私も知りたい。
「うん、持ってくる。
ただし、下手くそでも笑わないでね」
いくら覚悟をしているとはいえ、家が近くなるにつれて私の気持ちは強張っていった。
私の気持ちを支えているのは、「待ってるから」と言い私を送り出してくれた篤人くんの言葉。
意を決して戻った自宅は、昨日の朝出ていった時と何一つ変わらなかった。
家のどこにも夫が帰宅した形跡は見られなかった。
急な出張にでも出かけたのだろうか。
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時