Life 17 ページ8
朝、私を呼び覚ましたのはいつもの機械音ではなく甘い苦しさ。
眠ったときと同じまま、私は篤人くんの腕の中でいつもと同じ時間に目を覚ました。
いつもよりも短い睡眠時間だったけれども、とても満たされた気持ちだった。
きっとそれは身体よりも心が満たされていたからなんだろう。
いつまでもこうやって甘い檻の中にいたいけれども、そうもしていられない。
篤人くんを起こさないようにこっそりと腕の中から抜け出ると、バスルームに向かい温めのシャワーを浴びる。
何だか顔がにやけて、熱っているみたいだから。
閉じていたシャッターを上げ、窓を開けて部屋の空気を入れ替える。
早朝の冷たい空気に、身も心も洗われていくような感じが心地よい。
空を見上げれば、ドイツにしては珍しい快晴。
冷蔵庫の中身と相談しながら朝食のメニューを考える。
篤人くんはいつも朝食はパンなようだから今朝は和食にしてみよう。
いつもは億劫に感じている朝食作りも彼のためならと腕を振るいたくなるから我ながら現金なものだ。
ふと、夫はどうしているだろうかという考えが頭を掠めた。
昨晩のうちに、帰宅しない妻に気が付いたのだろうか。
それともいつも準備してあるはずの朝食がないことで妻の不在に気が付いたのだろうか。
どちらでもいい。
昨日帰らないと決めた時点で、私の覚悟は決まったのだから。
味噌汁が出来上がったことろで、リビングから静かな朝を壊す足音が聞こえてきた。
篤人くんが起きてきたのね。
おはようと挨拶をすると、返事ではなく急に抱き締められた。
「よかった、……帰っちゃったかと思った……」
篤人くんは、大げさに、まるで迷子の子どもが親と出会えた時のような顔をしていた。
昨日何度も抱き締めあったというのに、朝こんなに明るいリビングでされると急に羞恥が込み上げてきた。
「まだ寝ぼけてる?顔洗ってきたら?」
なるべく、そっけなく。
初めて一緒に過ごす朝が照れくさいのがばれないようにした。
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時