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バスルームから出ると、テーブルの上には朝食が並んでいた。
実に久しぶりな純和風な朝食。


「おーすげー」


ご飯に、味噌汁、出し巻き卵、漬物に、海苔。
一体、いつの間に作ったというのか。


「魚でもあったらよかったんだけど、ごめんなさい、在りあいで」
「いやいや、これは感動。俺、朝って面倒だからパン齧ってるだけだから、すげー感動」


さっきまで真剣に2人の今後を考えていたというのに、現金な俺の腹は御馳走を前にぐーっと空腹を主張する。


「さ、食べよう」
「いただきます」


冷蔵庫にあるものだけで作ったとは思えない贅沢な朝食をかき込む。
朝からたくさん食べるんだねとAさんは目を丸くした。


「まーね、身体が資本のこの仕事ですから」


二杯目のご飯をぺろりと食べ終わるとようやく一息ついた。


「今日明日と、俺オフなんだよね」


チームは遠征だから練習はねーの。
昨日と状況は何ら変わりないというのに、不思議と苦しさはなかった。あるのは悔しさだけ。
けれども今回だけはこの突然のオフが嬉しい。


「そう。
 朝食終わったら、私一旦家に戻るわね」


覚悟していたことが、やってきた。
自然と背筋がぴんと伸びた。


「あ、そのことなんだけど、その、……いや……」
「篤人くん」


覚悟していたというのに全く要領を得ない情けない俺を前にAさんは凛とした表情で遮った。


「これは、私の問題だから。
 だから、篤人くんは気にしなくてもいいし、気にするのは大きなお世話よ」
「だって、俺が……」
「でも最終的に、帰らないと決めたのは私なの」


表情通り、一寸の隙も見せない言葉に何も言い返せなかった。


俺との距離、随分縮まったと思ったのに、それは俺の勘違い?
俺を頼ってはくれないわけ?


「篤人くんと一緒にいたいと、一緒にいると決めたのは私なの。
 だから、今日明日も篤人くんと一緒にいさせて?」


あぁ、ごめん。
Aさんの覚悟を勝手に見積もってごめん。
Aさんはちゃんと俺を必要としてくれているんだね。


「ね、スニーカー持ってる?
 一緒にボール蹴ろうよ。俺、今日無性にボール蹴りたいんだ」


それは、Aさんが見つけてくれたから。
どうしようもなくサッカーが好きな俺のことを。
だから、Aさんにも知ってほしい、サッカーの楽しさをほんの少しでいいから。


「うん、持ってくる」


俺は、この家でAさんを待ってるから。

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設定タグ:内田篤人 , サッカー , 日本代表   
作品ジャンル:恋愛
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時

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