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冗談だってわかっている。
私も篤人くんも本気でそんなことを思っていないから、こんな軽口が叩けるんだ。
けれど、篤人くんと一緒にいることができたら、私は本当に毎日を笑顔で過ごせるような気がした。
身体を重ねて、お互いの距離が縮まったことで、今までよりも二人を包む空気がずっと柔らかくなったのを感じている。
温かくて、居心地がよくて、ずっとこのままでいれたら、私はどんなに幸せだろう。
「Aさん」
篤人くんが私の名前を呼んでくれる、それだけのことが嬉しくて愛おしくて、仕方がない。
きっと自分が思っている以上に、篤人くんが私の心に深く入り込んできているのだろう。
けれども。
もうすぐ、約束の一月が終わる。
絢子さんは復帰してきて、私も元の生活に戻らなくてはならない。
空を飛ぶような夢見心地から、急に現実に引き戻されて陸地に叩きつけられたような気分だった。
最後の5日を、楽しい気分で過ごしたい。
私は自分を取り戻すことができたのだと、もう1人でも大丈夫なのだと示しておかないと、篤人くんはきっと心を残したままになってしまう。
最初から、結末は決まっていたのだ。
今初めて聞いたみたいに慌てるのは滑稽だ。
時間の針を今さら止めることはできないのなら、せめて篤人くんが心を残さないように、最後まで私が大丈夫な姿を見せておかなければならない。
そうすることが、篤人くんへの最大の礼になるだろう。
私は、止まっていた自分の人生の針を進めなければならない。
「ねぇ、篤人くん、今日はどうする?」
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時