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篤人くんの温かい腕の中に抱き込まれる。
一見すると細見な体躯に不釣り合いな程逞しい腕はやっぱりサッカー選手なんだなと感じた。
とくんとくんと、ゆっくり正確なリズムで篤人くんの心臓の音が聞こえてくる。
「寝れねーの?」
「ごめんね」
「しょーがねーなー
んじゃ羊でも数えよっか」
「いいよ、先に寝て」
「俺はよくないの。どーせ眠くねんだから、試そ?」
既に半分寝落ち寸前の篤人くんの声に、ふふっと小さく笑うと篤人くんはゆっくり数え始める。
ひつじがいっぴき。
ひつじがにひき。
ひつじがさんびき。
ひとつ、またひとつ、丁寧にカウントアップする静かな声。
穏やかな息づかい。
「ひつじが………」
6匹まで数えたその後で、篤人くんの声がピタリ、と止んだ。
「篤人くん?」
不思議に思って気配を探れば、訪れた静寂に規則正しい寝息。
「篤人くん……」
「………」
今やすっかり夢の世界の住人になってしまった篤人くんは、それでも私の背中に回した腕は緩めてくれなくて。
まだ6匹しか数えてないのに、しょうがいないなぁ。
くすっと笑いながら、規則正しく揺れる胸にそっと手を添える。
確かに睡眠不足はきついけれど、篤人くんと過ごす時間は限られていて、このまま寝てしまうことが勿体ない。
それでも、緩やかに聞こえる命のリズムにいつのまにか私も引き摺られていって。
「おやすみなさい、篤人くん」
ぎりぎりのところで、もう聞こえることのないおやすみの言葉を吐いて私も眠りに落ちていった。
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時