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「旦那さんは?」
「主人は私より10歳年上。寡黙で、経営者というよりは典型的な技術者タイプな人。
結婚して5年になるけれど、実は私も彼をよく分かっていないの」
2度目に会った時に言われた、『夫婦になるというよりは、仕事上のパートナーになろう』って。
あの人は私の身上をよく分かっていてくれた。
そして、私の心を軽くするためにそう言ってくれたのだろう。
私はその言葉の裏に隠された主人の優しさに気付きながら、額面通りその言葉を受け取った。
彼に恋愛感情を持つ必要はない、仕事のパートナーとして恥ずかしくない行いだけをすればいい。
周りには『仕事の忙しい夫を支える穏やかなヤマトナデシコ』を演じればいい。
そうこの結婚は、私にとって仕事なのだ。
そうやって、主人と歩み寄ることもせず、彼をずっと遠ざけてきた。
そして、いつの間にか彼もそんな私に歩み寄ることをしなくなった。
主人の好意を最初に撥ねつけたのは、私。
「最低でしょ、私」
篤人くんは何も言わず、ただ首を横に振るだけだった。
「こっちに来て1年目はとにかく、毎日が嫌で嫌で仕方がなかった。
時間がありすぎて、何をしていいか分からなかった」
「それで、ゲーム?」
「そう、それでゲーム。
2年目もそうやって怠惰な毎日を送ってた。あの頃の私は廃人だったなぁ」
仕事もせず、特に趣味のなかった私は、ただ目の前の小さな機械を操作するだけで。
心は死んでいるのに、身体だけが延々と生かされ続けていた。
「見かねた主人が、茶道教室を開かないかって言ったの。
彼の仕事の取引先の奥様方が興味があるって言ってるからって」
教室を開くようになって、少しだけ私の生活は開かれたものになった。
けれども、変わらない。
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時