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「何で俺には話してくれてるの?」
俺は、自惚れてもいいんだよね。
「だって、篤人くんだけだから」
私に関わってほしいと思う人間も、その他に含まれない人間も、篤人くんしかいないから。
だから、篤人くんには知っててもらいたいの。
私のこと分かってくれなくてもいい、ただ、知っててほしいの」
その言葉は、今まで散々受けた告白の中で一番俺の心に響いてきた。
こんなに強烈な告白を、俺は今までされたことがない。
『好き』とか『愛してる』なんて言われるよりも、ずっとずっと価値のある言葉だと思った。
2人で並んで食器を洗い(ほとんどAさんがしたんだけど)、いつものように俺は食後のコーヒーを片手にソファに座った。
Aさんはまだワイン。
晩メシの時から結構なペースで飲んでいるけれども、顔色はいつもと一緒。
毎日飲んでいるというだけあって、さすがに強いらしい。
「今までの話に出てくるAさんって、ちょっと前のAさんとは随分違うんだね。
昔のAさんって、独立心が強くて、行動力もあるって感じなのに」
「今の私とは大違いでしょ?」
俺の言葉に気を悪くすることなく、自嘲気味にAさんは笑う。
「変わったのは、こっちに来たから?それとも、こっちに来ることになったから?」
きっと、これが最大のタブー。
Aさんが抱えている大きな大きな荷物。
Aさんを縛り付けている一番の理由。
それが分かっているから、俺はあえてタブーに触れることにした。
いつかAさんに言った言葉、
『俺が、Aさんのこと助けてあげるから』
助けてあげる。
Aさんを縛っている鎖をばらばらにして、自由にしてあげる。
泣きたいだけ泣かせてあげる。
Aさんの口が開くまで随分と時間がかかった。
一体どれほどの葛藤があったのかは、俺には分からない。
それでもAさんの口からは、再び過去が語られ始めた。
大丈夫。
俺は、Aさんの過去、今、これから、全部受け止められる。
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時