- Life is so beautiful - ３ (ページ32)

今日:28 hit、昨日:1 hit、合計:80,626 hit

４ページ32

「でもね、母とは相変わらずの対立で、顔を合わせれば言い合いばかりしてたっけな」

帰りが遅いこと、お稽古を休んだこと、親戚付き合いを厭うようになったこと、
意図して母の意に沿わぬことをしたわけではなかったけれども、小言ばかりだった。
父も相変わらず私に興味があるのかないのか、干渉はしてこなかったっけ。

私にとって母は、険悪な関係ではあったものの身近な存在だった。
けれども父は、遠い存在。
私に干渉してくることもないくせに、私の人生を決定する重要な局面にはいつも父がある。
高校進学の時は良い方に進んだけれども、その後のことは……。

私の結婚を決めた父。
私は、未だに父という人間を理解できずにいる。

今、父がここにいたら私に何というだろうか。

「ねぇ、彼氏もずっといなかったの？」
「気になる？」
「そりゃあ、Aさんに惚れてますから」

もう篤人くんは自分の気持ちを隠すことをしない。

「一人だけ、いた、かな。
　でもやっぱり、長くは続かなかった」
「どうして？」
「自分を、ね、見せることができなかったの」

家のこと、母との確執、昔彼氏にしたこと、私という人間を構成する要素を相手に見せることができなかった。
軽蔑されるのが怖かったし、話したことろで分かってもらえると思わなかったから。
それが相手には不満だったらしい。
『一緒にいても、Aを近くに感じない』別れの言葉はこうだったっけ。

「何で俺には話してくれてるの？」

だって。

「篤人くんだけだから」

私に関わってほしいと思う人間も、
その他に含まれない人間も、篤人くんしかいないから。

「だから、篤人くんには知っててもらいたいの。
　私のこと分かってくれなくてもいい、ただ、知っててほしいの」

昨日の篤人くんの言葉と同じ。
私のことを、知っててくれるだけでいいから。

「……ありがとう、話してくれて。
　Aさんが選んでくれた相手が俺で、すげー嬉しい」

篤人くんもやっぱり、昨日の私のように、照れくさそうに笑ってくれた。