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「好き、だった?」
やっと聞けた篤人くんの言葉は私の想像していたものとは全く違っていて。
「え……?」
だから、彼が何を言っているのかが分かった。
「その彼氏のこと、Aさん、好きだったの?」
「……分からない」
相思相愛で付き合い始めた訳ではなかった。
彼のことは憎からず思っていたから、何となく付き合ってみようかなとそんなきっかけだった。
それでもそれなりに好意はあったはずだ。
でも、好きだったのかと訊かれれば、断言できるほど強い気持ちがあったとも思えない。
「俺は、お母さんが怒った理由は他にもあるんじゃないかと思うよ」
「どうして、篤人くんが分かるの?」
「うん、だって、俺だって今怒ってるもん。
でもそれはきっとAさんが考えてるような理由でじゃないよ」
私が当時の彼に対して行った仕打ち以外に、何に怒る理由があるのだろうか。
親の私への信頼を自ら壊したこと?
「分からない?」
篤人くんは憐れんだような目で私を見つめてくる。
「うん」
「Aさんが、自分のことを大切にしていないから、怒ってんの」
「……」
「そりゃ、その彼氏にしたことは褒められたことじゃないけど、でも。
もっと自分を大切にしてほしかったなぁ、高校生のAさんには。
誰かへの当てつけだけで失っていいもんじゃないだろ、そんなに軽いもんじゃないでしょ。
お母さんだって、自分を大切にしないAさんのことをきっと怒ってたはずだよ」
篤人くんの言葉は穏やかで、でも、私の胸の深いところを抉る。
「現にAさんは今でもずっとそのことに負い目を感じてる。
もしあの時彼氏のことが本当に好きだったら、きっとそんな負い目感じることないっしょ。
もっと、自分のことを大切にしてほしかったな」
怒ってるというか、ちょっと悲しい。
篤人くんはそういうと、私の手をぐっと握ってきた。
「でも、そのことがあって今のAさんがあるんだから、
だから、関係ない。それだってAさんを作ってる要素っしょ」
あぁ、大切にされるって、こういうことなんだ。
私は、篤人くんの手を握り返した。
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時