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「温めてるからアルコール度数が低くなっているし、お砂糖で誤魔化されてる部分もあるから。
でも、8度くらいはあるから注意してね」
「8度?やべっ、顔赤くなってない?」
「ふふっ、大丈夫だよ」
「Aさん、お酒飲めるんだね」
「そうだね。夜、時間を持て余して一人でよく飲んでるの」
日本にいたころはワインを飲む習慣なんてなかったのに。
ドイツに来てから、ワインはほぼ毎日口にしている。
グラス一杯だけのときもあれば、ボトルを開けたり。
ドイツで過ごす一人の夜は、どうしても素面では過ごせなかったから。
「今日、泊まってくし、飲んでいいよ」
『泊まる』という言葉がやけにリアルに響いた。
最後の一滴を飲み干す頃には、身体もすっかり温まっていて。
心の方にも少し余裕が出てきたので、私は本題に入ることにした。
「んーっと、どこまで話したっけ、私のこと」
「お嬢様学校に通ってた話まで。
ゆっくりで、いいから」
無理しないで、Aさんの話したいように話したらいいんだからね。
篤人くんは優しく言ってくれた。
私は、誰にも話したことのない過去の扉に手を掛けた。
「昨日も話したけど、私中学校の雰囲気にどうしても馴染めなくてね」
かといって、その枠からはみ出す覚悟もなく、いつも目立たないように、馬鹿にされないように、ひっそりと。
「通ってた学校は中高一貫でね、だから高校もエスカレーターで上がることになってたんだけど、私それが嫌で嫌で仕方なかったの。
だから高校だけはワガママを言ったの、どうしてもこのまま上がりたくないって。
生まれてから一番の反抗だったと思うなー」
「それで聞き届けられたわけ?」
「それがねー、もう大騒動だった」
今まで親、母に対しては従順とまではいかなかったけれども、それなりに言うことを聞いてきた娘の反抗に母はとにかく驚いていた。
せっかく関西で名の知れた女子校にいるのに、成績不振でも問題行動を起こしたわけでもないのに、その道を外れるなんて信じられなかったようだ。
母には自分が整えた最良と信じて疑わないレールを外れたいという私の考えがどうしても理解できなかったのだ。
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時