Life 18 ページ15
篤人くんに教えてもらいながら、ボールを蹴る。
目の前の少し離れたところに蹴るだけだというのに、ボールは私の言うことをちっとも聞いてはくれない。
篤人くんはさも簡単だとばかりにしているので、こんなに難しいとは思わなかった。
それは篤人くんが小さい頃から今もなおずっと続けているからこそであって。
才能だってもちろん必要だけれども、きっとそれ以上に努力が必要だったんだろう。
篤人くんが今、日本を代表する選手として輝いているのは彼の努力の賜物なのだ。
「ありがとね
俺、Aさんがいなきゃ大事なこと、忘れるところだった」
それは違う。
篤人くんは自分がどれほどサッカーを好きか、ちゃんと分かっていた。
自分が色んな人の想いを背負っていることも分かっていた。
そんな篤人くんがあのままで終わるはずがなかった。
私は、ただ側にいて、見ていただけ。
篤人くんは自分自身の力で、壁を乗り越えたのだ。
私はどうなんだろう。
自分自身と向きあうと言いながら、いつまでも過去を引き摺り、
夫が留守なのをいいことに、こそこそと家を飛出し、
篤人くんの気持ちを利用して、彼のもとに転がり込んで。
大した覚悟もなく、ただ嫌なことから、逃げているだけ。
「好き、
Aさんのことが、好き」
お願いだから。
私の嫌いな私を、好きだなんて言わないで。
「私は……
私は、」
後が続かない。
篤人くんへの気持ちはもちろんある。
けれども、今の私にはそれを告げる資格なんてない。
逃げてばかりの私が、篤人くんの側にいていいはずがない。
篤人くんの視線が痛い。
私をまっすぐ見つめるその目が怖かった。
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時