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「まっすぐ蹴ったって、まっすぐは転がらないよ」
「そうなの?」
「しゃーねーな、内田先生が特別にレッスンしてあげよう」
大仰に言うとAさんは「せんせーよろしくお願いしまーす」とノってくれた。
意外に、Aさんはノリがいいことを初めて知った。
「これがインサイドステップっつー、基本中の基本ね」
分かりやすいように、ボールから足を離し、踵寄りで軽く蹴ると、ボールは少し離れたAさんのもとにまっすぐ転がっていく。
「ボールを出したい方向にまっすぐ身体向けてー、うんそんな感じ
で、足、肩幅に開いてみてー、んーもうチョイ開く感じで
蟹股気味に膝軽く曲げてー、おーいい感じ」
「身体が痛いー」
「はい、文句言わないー
そんで蹴るんだけど、軸足をボールの方に踏み込んで蹴ってみてー
あ、そん時足の内側の横の部分で蹴るんだけど、土踏まずよりも、踵寄りに当ててなー」
「篤人くんの言ってること、全然分かんないんだけど」
「んー、とりあえずそれで蹴ってみればー」
Aさんのの足が後ろに引かれ、ボールを蹴る。
パスンと軽い音を奏でたボールは、Aさんの身体の正面よりも僅かに右方向へと逸れてしまった。
「ねー、見た!まっすぐ転がったよー」
「えー、右にずれてたよ」
「プロ目線で見ないのー初めてにしては上出来じゃない?」
「まぁ、20点ってところかな」
「厳しい」
「そ、サッカーは厳しいの。昨日も言ったっしょ。ほら、もう一回」
ボールを蹴り返すと、もう一度Aさんはトライする。
今度はさっきよりちょっとだけマシになってきたかな。
「えいっ」
何回かこんなやり取りを繰り返すと、ようやくAさんも前に転がすことができるようになってきた。
思えば、イベント以外で女の人とパス練するなんてなかったな。
今までの彼女とこうやって一緒にボールを蹴りたいなんて思ったこともなかった。
むしろ、一緒にいるときはサッカーのことに触れてほしくなかったのに。
過去の誰かと比べるのは悪いけれども、今まで付き合った誰ともAさんはとは違う。
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時