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戻ってきてくれたAさんの両手にはたくさんの荷物。
右手のほとんどが食料品だとおぼしき袋だったけれども、左手にはヴィトンのボストンバック。
そのカバンを見た途端、またしてもAさんに色々背負わせてしまったんだと自覚させられた。
「おかえり」
「うん」
それでもAさんがこうやって何もかも放り出して俺のところに戻ってきてくれたことが嬉しい。
同時に何があっても俺はAさんを守ってあげないといけないんだという思いに駆られた。
心配しなくてもいいから、
大丈夫、俺がAさんを守るから。
「おかえり、Aさん」
「うん」
「ねぇ、ただいまは?
Aさんは俺のところに帰ってきてくれたんでしょ?」
「ただいま、篤人くん」
「よくできました」
このままずっとAさんの帰る場所がここであればいいのに、そんな夢を見ながらAさんの背中を撫でていた。
Aさんの買ってきた大量のパンたちは俺のリュックに入れ、出掛ける準備をする。
オフとはいえ、シャルケの試合がある日にホームタウン内をうろうろしているのは少々問題だろうけど構わない。
俺に気付いたって「次はちゃんと試合出ろよ!」とか叱咤激励してくれるのだからこっちのサポーターは懐が大きい。
その分、負けたときの叱咤激励もすごいんだけどな。
「ねぇ、これって自分で書いたの?」
背負った俺のリュックのポケットに書いた名前を指さしてAさんはくつくつ笑う。
「だって、ちゃんと名前書いとかねーと間違われるもん。
こっちの人ってそういうところ確かめないんだよなー。何、可笑しい?」
「可愛いなぁって」
「どこが」
まるで年下扱いされたみたいでちょっと面白くなかった。
俺の背中にはAさんが笑ったリュック。
Aさんの手には俺の家にあったボール。
この間と同じように二人してのんびりと公園まで歩いてゆく。
「何か新鮮だね、Aさんのその姿」
派手ではないんだけどセレブ感たっぷりのスカート姿なのに。デニム姿なんて初めてだ。
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作者名:ユリ | 作成日時:2016年9月17日 17時