ブリリアント【宝石の国】 (ページ12)

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遠き背を追う者ページ12

「ごめーんダイヤ……また倒れたあー」
「ヘリオ、顔。顔怖いわ」

ぼんやりと光を放つ海月の入った桶を抱え、さながら怪談話を語る時のようなホラーを醸しながら謝るヘリオに、ダイヤは苦笑する。

「それに、僕よりレモンに言った方が良いわよ。運んでくれたのはあの子だから。あとでちゃんとお礼言っておきなさい？」
「ああい……」
「ふふ、すっかりおねむみたいね」
「また寝そう……」

ダイヤはうつらうつらするヘリオの頭を優しく撫でた。ヘリオの赤い瞳がその手をぼんやりと見上げる。

「ヘリオ？」
「僕が……お兄さんしたいのに、なあ」
「ふふっ、いつもはそう見えるわ。けれど日が沈んだら逆になるの。たまには僕にもお兄さんさせてよ」
「んう……」

ヘリオは煮え切らない返事をして枕に顔を埋めた。しかし、あの目の意味は別にあるのではないか。ヘリオの目に一瞬浮かんだ悲痛が気にかかった。

「ねえ、ヘリオはどうしていつもお兄様を追いかけているの？」
「……すぐどっか行っちゃうんだもの」
「うーん、そうじゃなくて……」
「すきだから」
「まあっ！」
「ああもう、違う……。尊敬してるの」

分かりやすく目の色を変えるダイヤに、ヘリオは面倒くさそうにひらひらと手を振る。ダイヤの恋愛嗜好に巻き込まれては堪らない、とでも言うように。

「コロラドアイトは、強い。でも、脆いでしょう。僕はコロラドアイトにひと欠片も失って欲しくないの」
「……孔雀んになって欲しいの？」
「それは嫌だ」

ヘリオはピシッと広げた掌を見せ、それまでの眠たそうな口調が嘘のようにはっきりと拒否する。よほど嫌ならしい。

「お兄様といるヘリオは楽しそうに見えるのよ。でも……」
「楽しいよ。幸せだよ。他に何を思うっていうの？」
「……」

にぱっと満面の笑みを浮かべるヘリオに、ダイヤは言葉を詰まらせる。

「そう、ね。そう……よね」
「ダイヤ？」
「ううん、なんでもないの。長々と話しちゃってごめんね。おやすみなさい」
「……おやすみ、ダイヤ」

ふるふると首を横に振り、ダイヤは逃げるようにして足早に去っていった。ダイヤが部屋を出てから投げた挨拶は、届いてはいないだろう。

「そう、他には何もないの」

微睡みに溶ける瞳。ぽつりと零した言葉は、自分に言い聞かせるように。

「だから、ねえ。ひと欠片も失わないで。ちっぽけな僕を、忘れてしまわないでね」

ぱしゃりと音を立て、海月が小さく跳ねた。