#07 寝て、醒めて ページ7
「じゃあ、俺はここで。俺もさすがに寝ないとまずい」
「ここまで連れてきてくれてありがとう、瓜生。おやすみなさい」
「おう、おやすみ」
ひらひらと手を振り、自分へ背を向けた瓜生の姿が完全に廊下の向こうに消えるのを見届けてから、少女はドアを開けた。狭い部屋にはシーツが敷かれただけの簡素な寝床があり、それ以外には何もない。布団も窓すらも無い部屋を見た少女は、まるで監獄のようだと思った。たった二日寝るだけの部屋だから、これでじゅうぶんではあるのだが。
シーツの上に座ると、ぬるま湯に浸かっている感覚によく似た睡魔がじんわりと爪先から広がり始め、頭のてっぺんを目指して侵食を始めた。そこで少女は気付く。ああ、自分は疲れていたのだ、と。
親を失い、故郷を失い、自分の中から人間という存在を失い。まるで、死ぬ前だからと神がこの先あったかもしれない不幸を詰め合わせて送ってきたような数日間。追い詰められたことで心がすり減っていることに気づかなかったわけではない。気付かないふりをしないと少女の心が持たないのだ。
シーツの上に寝転がると自然と瞼は降りてきた。誘われるがままに暗闇の中に堕ちていく。
その日、少女は夢も悪夢も見ずに、こんこんと眠り続けた。
少女の眠りは、どんどんと扉を強く叩く音で醒された。普段はあと五分だけ、とぐだぐだしてしまっているのだが、今日に限っては何の抵抗もなく瞼が開いた。よく眠れたってことなのかな、とこんな状況でも発揮される自身の図太さに呆れつつ、少女はシーツに手をつき、それを支えに体を起こした。
今は何時かと、ふと部屋を見渡す。しかし、残念なことに窓が無いため陽が入らず、少女が眠りについた時と変わらず宵闇のように真っ暗なこの部屋では、今が夜なのか朝なのか、はたまた昼時なのかの判断すらもつかなかった。
「おい、早く起きろよ。出てこねぇとお前の朝飯他のカバネリに回すぞ」
反応が無いことに痺れを切らしたのか、扉の向こうから声がした。脅しのような一言に弾かれるようにして少女は寝床から立ち上がる。
研究者の口振りと自分の腹の空き具合から、もう何日も食事を口にしていないことは明白だった。それなのに貴重な食料を他に譲るなんて絶対にあってはならないことだ。
目を凝らし、暗がりから見つけた取っ手を大慌てで捻って外へ出る。
「やっと起きたか、ねぼすけ」
戸口で待ち構えていたのは、昨日この部屋の前で別れた瓜生だった。
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詩(プロフ) - 小林弘実(app)さん» ありがとうございます。残り話数はそう多くありませんが、これからもお付き合い頂けると幸いです! (2016年8月4日 23時) (レス) id: 333258c32a (このIDを非表示/違反報告)
小林弘実(app)(プロフ) - 詩さん» そうですか。これからも創作頑張ってください! (2016年7月31日 21時) (レス) id: 44473ae3b7 (このIDを非表示/違反報告)
詩(プロフ) - 小林弘実(app)さん» 小林様、この度は当作品の閲覧、そしてコメントありがとうございます!楽しんで頂けているようで嬉しい限りです…!この作品以外の活動となりますと、別のアカウントで一次創作のような短編を詰め込んだものがありますが、二次創作物はこの作品のみとなっております。 (2016年7月31日 18時) (レス) id: 333258c32a (このIDを非表示/違反報告)
小林弘実(app)(プロフ) - いつも楽しく拝見させていただいております( ^ω^ ) 他で小説は書かれたりしないのですか? (2016年7月31日 17時) (レス) id: 44473ae3b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:詩 | 作成日時:2016年6月26日 11時