#17 人 ページ17
美馬の判断が鈍ったのは、久しく目にしていなかった、やたらと“人らしい反応”に違和感を覚えたせいである。
少女はカバネリに対する当たり前の反応をとっただけだ。実際に向けられたことがあるという訳ではないが、無名や滅火の側に立つことで、カバネリへの軽蔑や畏怖のような表情はずいぶん見慣れてしまっていた。そんな美馬にとってそれは大した障害ではないし、何と言っても彼はその程度で傷つくような繊細な心は持ち合わせてはいない。
「(こいつはまだ、人間だということか)」
とんでもなく面倒なものを引き取ってしまったものだ。この一日二日で何度も思った言葉が浮かぶ。
こういう終わりの見えない沈黙は苦手なのか、居心地が悪そうに俯きながらも、目下の少女はそわそわと忙しなく手を組んで開くという単調な動きを繰り返していた。少女に向き直った美馬は少し考え、無名にものを言い聞かせる時にするように身体をかがませる。そっと伸ばした手でなるべく優しく両肩を掴むと、少女はびくりと体を揺らし、わかりやすく動揺した。やっと美馬へと向けられた瞳は、後悔の念とどうすれば良いのかという迷いの感情の色が汚く混じり合っていた。
「お前が、気に病むことではない」
一つの単語ごとに、少女へ馴染ませるような響きが込められていた。
「そのカバネリへ向ける感情があるだけ、まだ人であるということだ。どれほどカバネリのうわべの知識を得ようとも、その存在を受け入れようとも、心はそう簡単に変わりはしない。……良かったではないか。お前は死ぬまで人だ。そう、──」
自分という存在を疎み、怯え、恐怖心から我が子にすらも刃を向けた父と同じように。
少女のまるい瞳がこぼれ落ちそうなほど大きく開かれて、ようやく自身が口走った言葉に気づいた。力を抜いて置いたはずの手のひらは、いつの間にか少女の双肩を強く掴んでいた。
唐突に与えられた答えに、美馬はひとり、納得したように「そうか、そうだったのか」と呟く。
出会ったばかりの頃に少女へ抱いた嫌悪感、少女が呆気なく命を捨てようとした時の焦燥感、思い通りにならない苛立ち。全てが自分とは対極の位置にある、あのどうしようもないほどに臆病な父を彷彿させた。ただ生身の人らしく、人であるが故の行動をしていたからこそ、美馬は少女に対し様々なやりきれない様な感情を抱き続けていた。
そして、だからこそ、美馬は少女をどこか別世界の生き物として見ていたのだ。
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詩(プロフ) - 小林弘実(app)さん» ありがとうございます。残り話数はそう多くありませんが、これからもお付き合い頂けると幸いです! (2016年8月4日 23時) (レス) id: 333258c32a (このIDを非表示/違反報告)
小林弘実(app)(プロフ) - 詩さん» そうですか。これからも創作頑張ってください! (2016年7月31日 21時) (レス) id: 44473ae3b7 (このIDを非表示/違反報告)
詩(プロフ) - 小林弘実(app)さん» 小林様、この度は当作品の閲覧、そしてコメントありがとうございます!楽しんで頂けているようで嬉しい限りです…!この作品以外の活動となりますと、別のアカウントで一次創作のような短編を詰め込んだものがありますが、二次創作物はこの作品のみとなっております。 (2016年7月31日 18時) (レス) id: 333258c32a (このIDを非表示/違反報告)
小林弘実(app)(プロフ) - いつも楽しく拝見させていただいております( ^ω^ ) 他で小説は書かれたりしないのですか? (2016年7月31日 17時) (レス) id: 44473ae3b7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:詩 | 作成日時:2016年6月26日 11時